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「日本のマスク不足」と「中国共産党による出荷制限」の真実=立沢賢一(元HSBC証券会社社長、京都橘大学客員教授、実業家)
有事にはあらゆるリソースを挑発!恐るべき「国防動員法」
2010年7月1日、中国では「国家の主権、統一と領土の完全性および安全を守るため」として「国防動員法」が施行されました。
どのような法律かと申しますと、中国政府が「有事」だと判断すれば対中進出している外資系企業も含めて、中国のあらゆる組織のヒト・モノ・カネの徴用が合法化されるという内容です。
原則として国内外にいる18歳から60歳の男性と18歳から55歳の女性の中国人に適用される法律ですから、中国国内の中国人のみならず、現在日本にいる大量の中国人は、有事の際に中国軍に動員され、日本で破壊活動や軍事活動を開始する要員とされてしまう可能性がある、ということになります。
2018年末現在の在日中国人数は、約81万人でした。2018年の中国から日本への旅行者は約838万人で、両者を合わせますと、年間約919万人の中国人が日本に滞在していたことになります。それらの中国人に対し、突発的に国防動員がかかる可能性は「有事勃発の際には」十分にあり得ることです。
資本主義経済過熱の裏で進む「共産主義の強化」
更に、この法律は中国に展開する外資系企業も対象になるため、例えば日系企業の中国にある銀行口座凍結や金融資産没収、売掛金放棄も可能性があり、その範囲も企業など組織や個人が所有または使用している生活上の物資や施設などまで含むとされています。
現地工場の生産設備や物流のための自動車やトラックなどまでもが根こそぎ合法的に徴用されてしまうのです。
また、日系企業の中国現地法人が雇用した中国人従業員が同法に基づいて予備役として徴用されて職場を離れた場合も、日本企業は彼らへの給与支給を続ける義務がある、とされています。その他、「最悪の有事」が勃発した際には日本人駐在員やその家族が中国共産党の人質になる危険性も排除できません。
少し古いデータですが、2016年末までに中国国営企業147,000社のうち93.2%に中国共産党の党組織が設立され、民間企業273万社のうち67.9%、さらに外国系企業106,000社のうち70%に上る75,000社にも中国共産党の党組織が設立されている旨が明らかなっています。
このデータからすでに3年以上経過してますから、現在は中国内企業の中国共産党による統制監督体制はもっと強化されているものと思われます。
日系企業生産のマスクは「挑発」されていた?!
さて、国防動員法第54条では「備蓄物資が国防動員の需要を延滞なく満たすことができなくなったときは民生用資源を徴用できる」とし、「社会生産、サービスおよび生活に用いる施設、設備及び場所その他物資」がその対象となっていると規定されています。
新型コロナウイルスによるマスク不足の原因の一つは、この規定に関係していると言って良いでしょう。
現象面を見ますと、中国で製造した日本メーカーの製品は倉庫で山積みになっているのですが、2020年1月25日以降、出荷制限がかけられ出荷できなくなっています。
日本企業が中国で生産し、日本へ輸出を準備していたマスクが日本へ届かず、日本がマスク不足に陥ったのは、実際には発令はされていないものの、国防動員法の思想が影に隠れていると思われるのです。
因みに、中国国務院は中国外資系メーカーに宛てた2月3日付けの書簡の中で、手術用マスクや防護衣料を全てメーカーから購入すると伝えていました。
サプライチェーンの中国依存が招いた「人命の危機」
ミネソタ州セントポールに本社を置く3Mは、深圳、広州、上海、蘇州、合肥、杭州などにある中国で11の工場を稼働させていますが、中国政府は米国3M中国工場で生産された3Mマスクの米国への輸出を禁止していました。
N95マスクに使われている0.3μmの微粒子を95%以上捕集することができるポリプロピレン繊維は中国に依存しているのですが、3M製造のN95マスクは中国国内で流通していても、米国には届いていないのが実情なのです。
また、カナダのマスクメーカー、メディコム・グループは、上海市内の工場で1日当たりに300万枚のマスクを生産しているのですが、上海市政府に生産品全てを売るよう命じる当局の書簡を受け取ったとの事でした。
このように中国は、日本だけでなく米国やカナダの中国に進出している医療用品製造会社に対しても自国へのマスクの輸出を制限していることが窺えます。
中国は世界の医療用マスクの半分を製造し、世界のマスク生産能力の85%を占めていますが、その中国は、本年1~2月に世界各国でなんと約20億枚のマスクを買い占めたそうです。
私たちはマスクをはじめとする医薬品や医療機器など、人命に関わる国の戦略物資のサプライチェーンを極端にまで中国に依存してしまい、自己防御の脆弱性を露呈してしまった現実を身に沁みて感じるべきなのです。
そして、日本の安全保障及び国防に重大な影響を及ぼす危険性について再認識し、1日も早く有効な対策を講じる必要があるのです。
中国人民の不満が爆発?「国防動員法」発令の可能性
中国は現在、国内において新型コロナウイルスに対する人民の不満が爆発しそうな状態にあります。勿論、人民解放軍による統制はされていますから、それが国家問題になるレベルまで深刻化するとは思いませんが、習近平政権にとってはマイナス材料でしょう。
また国外からの圧力として、中国の新型コロナウイルスの初動対応の誤りが世界的な感染拡大を招き、先進7カ国に限っても最低4兆ドル(約428兆円)に及ぶ経済的損失を被ったと欧米は訴えています。
インドでは弁護士団体などが20兆ドル(約2140兆円)の賠償を求める請願書を国連人権理事会に提出したり、ナイジェリアでも弁護士らが、中国政府に対し2千億ドル(約21兆4000億円)の賠償を求める考えを表明したそうです。
このような状況下、中国共産党は内憂外患の激化への対応策として、軍事行動をとる可能性があるのです。新型コロナウイルス感染後から南シナ海や東シナ海での中国空・海軍の動きがかなり激しくなってきています。トランプ大統領が台湾に肩入れして以来、台中問題も微妙に不安定になっております。
私たちは、万が一、中国が台湾絡みで軍事行動に出た場合、国防動員法を発令する可能性は充分にあると意識しておくべきなのです。
立沢賢一(たつざわ・けんいち)
元HSBC証券社長、京都橘大学客員教授。会社経営、投資コンサルタントとして活躍の傍ら、ゴルフティーチングプロ、書道家、米国宝石協会(GIA)会員など多彩な活動を続けている。投資家サロンで優秀な投資家を多数育成している。
投資家サロン https://www.kenichi-tatsuzawa.com/neic