国際・政治コロナ危機の経済学

それでも14億市場「中国ビジネス」は日本「生き残り」のための生命線だ=丹羽宇一郎(日中友好協会会長、元駐中国大使)

丹羽宇一郎氏 (日中友好協会会長、元駐中国大使)
丹羽宇一郎氏 (日中友好協会会長、元駐中国大使)

 中国発のコロナパンデミック(世界的流行)が経済的な混乱を引き起こしたと言われている。どこが新型コロナウイルスの起源になったか。米国側は中国・武漢の研究所だと主張し、中国は証拠がないと反論する。発生当初の時点で、これがパンデミックになると分かった人はいなかったはずだ。世界の細菌やウイルス対策の司令塔でもあるWHO(世界保健機関)が、パンデミックを宣言したのは3月11日だ。

米国にも責任

 中国がこのような事態になることを初めから分かっていたかのような発言をするのはおかしい。米国(トランプ大統領)は、選挙を目前に控え、自らの対応が遅れたから「中国が悪い」と言い始めたのだろう。これは大きな問題だ。米国も当初はパンデミックになるとは思っておらず、軽く見ていたはずだ。「ウサギとカメ」の話なら、中国だけでなく、中国を手助けしなかったという点では、米国にも責任があるはずだ。

 トランプ大統領が就任以来、ツイッターを通じて、都合の良い話だけを発信している。これは「ポスト・トゥルース(好きか嫌いかで情報を選択)」「フェイクニュース」「オルタナティブファクト(真実に対するもうひとつの事実)」といった三つの言葉に象徴される。何が真実か見極めづらくなっている。

 米国の調査会社(ピュー・リサーチセンター)によると、米国人で中国が嫌いな人は、1979年国交開始以来、最悪の66%を占める。特にトランプ氏の支持者で嫌いとする回答が多い。トランプ氏は大統領選の民主党候補者のバイデン氏を「親中派」と見なし、選挙が終わるまでバイデンをたたく目的で、中国嫌いを増やさないといけないと考えているようだ。

 結局、日米同盟の中で、これからの日本が平穏に生きる唯一の道は、日本人が自立心を強く持ち続けることだ。米国に100%ついて行くだけではだめだ。しかし、米国とけんかをしてはいけない。コロナ終息後も経済のV字回復が見込めない中、日本は自立心を持っていくしかない。経済は生き物だ。だから簡単に死んだり、飛び跳ねたりするわけにもいかないのだ。

 日本の中国との付き合い方は、これまでと変わることはない。しばらくは全国人民代表大会(国会に相当)もあり、簡単に入国できないなど厳しい規制を設けるだろう。コロナの中間層以下の人々へのワクチンができた後も、14億人という市場を持つ中国を抜きに、今後の日本は考えられない。

 供給面でも日本の未来は相当難しい。人口4000万人以上の32カ国のうち、14歳以下の割合は、日本は12.4%で31番目だ。5〜10年後、年寄りばかりでは仕事にならない。日本は将来、働き手も不足するだろう。

免疫高め共存を

 予防薬ワクチンができた後の世界でも日本は劣勢だ。だから14億人の大市場を前に、黙って見過ごしてはダメだ。好きも嫌いも関係なく中国を日本の市場と思うことだ。まず信頼できる中国人を確保できれば、日本のビジネスは成功する。今から10年ほどは思想や哲学といった「ペン」よりも、お金である「パン」の方が大事だ。

 厳しいかもしれないという見方が有力だが、結局、人類は新型コロナとは「共存」していかないといけない。新型コロナは、いわば家なし子だ。住む家を人間の中に見つけたといえる。このウイルスは、まだ何者か正体が分かっていない。

 しかし、自分が住む家の宿主である人間が亡くなれば、ウイルス自身も生き残れないはずだ。人はウイルスが体に入っても、自分の体力の中で仲良くすればいい。多くの人々が免疫力をつければ、ウイルスもおとなしくならざるを得ないだろう。

 天然痘も最初はどうしようもなかったが、免疫が人間の中にできることで菌が入っても発病しなくなった。1〜2年はかかるかもしれないが、コロナでも同じようなことが起きることは間違いないだろう。

(本誌初出 インタビュー 丹羽宇一郎 見過ごせない中国14億人巨大市場 “ペン”より“パン”が大事だ 6/2)

(丹羽宇一郎・日中友好協会会長、元駐中国大使)

(聞き手=神崎修一・編集部)


 ■人物略歴

にわ・ういちろう

 1939年愛知県生まれ。名古屋大学卒。62年伊藤忠商事入社。主に食料部門に携わる。98年同社社長。2004年同社会長。10〜12年駐中国大使。

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