「コロナ後」にらむ出版社が独自販売=永江朗
光文社は自社の通販サイト「kokode.jp」において、雑誌の読者直販を送料無料で開始した。ただし5月13日から6月末日までの期間限定。対象は女性ファッション誌『HERS(ハーズ)』5月号や『JJ(ジェイジェイ)』6・7月合併号など月刊7誌と、週刊誌『女性自身』の4月21日号から6月9日号までである。
定期購読以外での雑誌の読者直販は珍しいが、新型コロナウイルスの影響である。書籍でも、亜紀書房は通販サイト「あき地の本屋さん」を開設し、自社の出版物の直販売を開始、当面は送料無料とする。晶文社も電話または自社サイトの問い合わせフォームからのメールで、注文を受け付け、送料無料で販売している(こちらは5月31日まで)。
緊急事態宣言が出て一部の書店は休業や営業時間短縮を余儀なくされている。
ところが、読者にとって頼みの綱と思われていたネット書店、とりわけアマゾンで在庫切れが頻発するようになった。営業自粛・外出自粛によってネット通販全体の利用者が激増した影響である。物流網の破綻を防ぐため、生活必需品の受注を優先。優先度を下げられた書籍・雑誌は、アマゾンへの納品が制限されるようになった。販路を失った出版社は、急きょ、一時的に読者へ直接販売することにしたわけである。
また、角川春樹事務所は5月から自社作品の電子書籍化を本格的に始めると発表した。初回、5月15日の配信は北方謙三『三国志』シリーズや堂場瞬一『警視庁追跡捜査係』シリーズなど15点。プレスリリースには新型コロナウイルスの影響のためとは書かれていないが、関係はあるだろう。
今後、営業や外出の自粛要請が取り下げられても、社会は“コロナ以前”には戻らないだろう。出版界も同じだ。私たちは再流行やウイルスの強毒化におびえながら生活していかなければならない。
読者直販も電子書籍化も、従来の流通ルートが機能不全に陥ったときの、オルタナティブ(代替的)な回路だと捉えられる。“コロナ後”に向けて、出版社は取次や書店に依存することなく自前で本を読者に届けるシステムを構築する必要がある。
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