教養・歴史書評

『日本経済の再構築』 評者・小峰隆夫

著者 小黒一正(法政大学教授) 日本経済新聞出版社 2200円

日本経済の根本3課題を明示 システム改革に具体的提言

 日本経済が直面する諸課題を真正面から取り上げた力作である。

 本書ではまず、「人口減少・少子高齢化」「低成長」「貧困化」の三つが根本的な問題であることが示される。その上で、財政再建、日銀の異次元緩和と財政の関係、年金・医療問題、社会保障、国と地方の関係、成長戦略と格差の是正などの具体的な課題が取り上げられる。

 これらの諸課題解決のためには、本書の最初に述べられる三つの本質的な問題に取り組む必要がある。そのためには、経済社会全体のシステムの抜本的な改革が必要だというのが本書の主張である。

 本書の優れているところは次の二つである。一つは、理論的なフレームワークに従って、実際のデータを当てはめた上での実証的な議論が展開されていることだ。例えば、財政の展望に関しては、今後予想される社会保障費の増加に対応するためには、2040年度に消費税率を22%までに高める必要があること、また、ドーマーの命題(名目GDP成長率と財政赤字を一定に保てば、公的債務残高も一定値に収束するとする説)を紹介した上で、政府が掲げる楽観的な経済前提を離れて計算してみると、債務残高の対GDP比は約300%(場合によっては590%)に達しないと収束しないことなどが示されている。

 もう一つは、制度変革についての斬新的な提案が行われていることだ。例えば、年金制度については、人口減少・高齢化時代にあっては、現行の賦課方式より、積立方式が優れているのだが、移行期においていわゆる「二重の負担」問題が生じるので、積立方式への移行は困難というのが常識である。これに対して本書では「事前積立方式」によって現実的に移行が可能という提案をしている。この他にも、医療版のマクロ経済スライド方式、道州制の受け皿としての地方庁構想、公務員の議員兼職を認める「政界出向制度」などの独創的な制度が提案されている。

 日本経済は、コロナショックという未曽有の危機に見舞われている。危機が去った時、危機前に直面していた諸課題に再度向き合うことになる。あるものはこの間に問題が深刻化している可能性があり(財政再建、デフレからの脱却など)、あるものはコロナが契機となって問題解決のきっかけがつかめるかもしれない(生産性の上昇や産業構造の変化)。我々は改めてコロナ前の経済について認識を再確認しておく必要がある。本書はそのための基礎的な議論を提供してくれている。

(小峰隆夫・大正大学教授)


 おぐろ・かずまさ 1974年生まれ。京都大学理学部卒、一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了。大蔵省(現財務省)勤務の後、2015年から現職。著書に『財政危機の深層』など。

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