教養・歴史書評

『障害者差別を問いなおす』 評者・新藤宗幸

    著者 荒井裕樹(二松学舎大学准教授) ちくま新書 840円

    「常識」を疑い、自立の尊重へ改めて「差別とは何か」問う

     2016年に神奈川県相模原市の障害者施設で起きた殺傷事件の反響は、犯行への批判一色ではなかった。犯人の「障害者は生きる意味がない」といった趣旨の発言に共鳴する言葉が、SNSにあふれた。「障害者差別とは何か」を改めて考えてみなくてはなるまい。

     著者は障害者団体「青い芝の会」の活動を素材として、障害者が何を「差別」ととらえ、いかに生きようとしてきたかを解き明かし、障害者差別に新たな視座を提起している。

     青い芝の会は、肢体不自由児学校・東京市立光明学校(現東京都立光明学園)の卒業生である山北厚ら3人を発起人として、1957年に親睦団体として発足した。支部制度を採用していた同会には、69年にその後の障害者運動に多大な衝撃を与える「青い芝の会神奈川県連合会」が結成される。本書が取り上げる青い芝の会は、この神奈川県連合会であり、またリーダーであった横田弘、横塚晃一の著作であり行動である。青い芝の会は行動綱領をつくる。そのなかで「優しさ」「同情」「愛」「正義」といった価値観自体が、障害者差別に通じるとした。障害者が自立した人格として生きるには、親はもとより国家の慈恵をも拒否する必要がある。当然、青い芝の会の行動は先鋭となる。川崎市で展開されたバスへの自由な乗車要求、障害児を殺した母親の減刑嘆願運動への反対、優生保護法に「胎児条項」を導入しようとした同法「改悪」反対闘争、養護学校義務化反対闘争が展開される。こうした運動のなかでも「胎児条項」反対闘争には、障害者の怒りと闘いの理念が凝縮されていよう。親や生まれくる子どもの将来を慮(おもんぱか)って、障害をもつ胎児の中絶を法的に認めるのは、現に生きている障害者の存在を否定する差別なのだ。

     著者は相模原事件の報道や行事にみる「障害者も同じ人間」というフレーズの問題性を指摘する。この言葉は、ハンセン病療養所の患者同士の結婚に不妊手術が強要されたように、障害者も社会の有りようや「常識」に従う思慮深さをもつべき、という意味に通じる。

     障害者のいう「障害者も同じ人間」とは、「他の人に認められている社会参加への機会や権利は、障害者にも等しく認められるべき」という意味なのだ、と著者は強調する。

     障害者抜きにつくられた「常識」は、依然として社会を支配し、障害者の自立を拒んでいないか。青い芝の会の問題提起を丹念に再生し、「差別とは何か」を追究した本書は、われわれに重くのしかかる。

    (新藤宗幸・千葉大学名誉教授)


     あらい・ゆうき 1980年生まれ。東京大学大学院人文社会系研究科修了。障害者文化論、日本近現代文学を専門とする。著書に『生きていく絵 アートが人を〈癒す〉とき』などがある。

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