教養・歴史書評

『SDGs投資 資産運用しながら社会貢献』 評者・平山賢一

著者 渋澤健(コモンズ投信取締役会長) 朝日新書 810円

「と」でつなぐ対照概念に注目 未来見据えた“インパクト”

 著者は独立系の資産運用会社、コモンズ投信の創業者。30年を1世代とした持続的な投資が、安心できる社会をもたらすという観点から、厳選した日本株に長期投資するファンドを運用してきた。世間にはESG(環境、社会、ガバナンス)本やSDGs(持続可能な開発目標)本があふれるが、そうした運用を実践してきた著者だからこそ、イノベーターとしての血潮がほとばしるとともに、机上の空論ではない迫力が伴う。

 面白いのは、本書のキーワードが「と」である点だ。二つの対照的な概念をつなぐことで、新たな価値が生じるということ。ギリシャ文化とオリエント文化が出会って生まれたヘレニズム文化しかり、日本と欧米列強の接触が要因となった明治維新もそうかもしれない。

 そして、この著者ならではの決定的に重要な「と」の書物がある。著者の高祖父にあたる渋沢栄一の『論語と算盤(そろばん)』である。渋沢は人格形成と事業で利益を出すことの双方が大切であることを説き、利益競争ではなく、「誰一人取り残さない倫理性」と「新しい需要や価値を見つける収益の探求」を共にめざした。この姿勢が、本書の醍醐味である「インパクト投資」に展開されていく。

 インパクト投資とは、貧困など社会的課題の解決に取り組む企業に投資すると同時に、収益性も期待するもの。本書では、投資したい個人と小口資金を集めたい企業をネット上でマッチングさせる「ソーシャルレンディング」が紹介されている。メキシコの女性起業家支援ファンドやアフリカの未電化地域支援ファンドなどが好例だ。

 インパクト投資は、経済的リターンを犠牲にしてでも、社会的課題の解決に注力する投資と思われがちだ。著者はそうではなく、社会的課題解決の持続可能性を支えるために経済的なリターンを求めることだと定義する。そのうえで、社会的課題の解決度合いを目に見える指標として測定し、その指標が改善されていけば、大きな資金が持続的に流れ込むエコシステム(生態系=経済活動の有機的なつながり)を作れるはずと考える。

 著者は、「楽しい」投資を標榜(ひょうぼう)するが、奥底には「うれしい」投資がある気がしてならない。世は変化の連続であり、今年は新型コロナウイルスの感染拡大が我々を波乱の渦に巻き込んだ。だが、苦しみを乗り越えて新たな社会を作り上げた後には「うれしい」境涯が待ち受けている。その一歩を踏み出す勇気が湧き出る一書と言えよう。

(平山賢一、学習院女子大学・東洋大学非常勤講師)


 しぶさわ・けん 1961年生まれ。米UCLAでMBAを取得し、米ヘッジファンドの日本代表などを経て2001年にシブサワ・アンド・カンパニー設立。07年にコモンズを設立し、08年より現職。

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