エルニーニョ&ラニーニャ現象(上) 貿易風の変化が起こす異常気象/7
日本が数年おきに経験する冷夏や暖冬も、世界的に見れば循環的に起きている気象現象の一部である。そうした代表に「エルニーニョ現象」がある。南米ペルー沖で冬の海水温が平年より2〜5度ほど上昇する現象で、数年ごとに周期的に発生する。
エルニーニョ現象のない通常の年は、太平洋中央部で東風(貿易風)が吹いている(図の上)。この時、赤道付近の海の表面にある温かい海水は、貿易風に動かされて西へ吹き寄せられる。この結果、南米ペルー沖では、移動した表面の海水と置き換わり、深海から冷たい水が湧き上がる。
この深層水にはリンや窒素などが含まれており、プランクトンが大量に発生する。これらをエサにするカタクチイワシなどが集まり、この海域は世界有数の漁場となる。
ところが、年によっては貿易風が著しく弱まることがあり、栄養分に富む深層水の湧き上がりが止まって魚が取れなくなる。こうした現象をペルーの漁師たちは神様が与えてくれた休みと考え、エルニーニョ(スペイン語で「神の(男の)子」)と呼んだ(図の中)。
日本では冷夏・暖冬に
その後、エルニーニョ現象は世界各地で発生する異常気象と連動していることが分かってきた。貿易風が弱まると、太平洋中央部の暖水が東へ広がり、雨を降らせる積乱雲の活動も通常より東へ移動する。その結果、オーストラリアなど太平洋の西側では大規模な干ばつが発生し、広範囲で森林火災や農作物の不作が生じる。
こうした異変は最初、太平洋の赤道付近の熱帯域で発生するが、時間とともに中緯度や高緯度地域にも広がっていく。日本では梅雨が長引き、冷夏となったり台風が減少したりする。一方、冬は西高東低の気圧配置が弱まることで暖冬になりやすい。また、欧州でも過去、強い寒波が襲い、干ばつの被害はアフリカにも及んだ。
エルニーニョ現象とは反対に、貿易風が平年よりも強く吹くことで起きる「ラニーニャ現象」がある。ラニーニャはスペイン語で「女の子」という意味だが、深層水が例年よりも大量に上がって海水温が通常の年よりも低くなる(図の下)。
ラニーニャ現象が起きると、日本では平年よりも夏は暑くなり、冬は寒くなる。また東南アジアでは集中豪雨が起きたりする。エルニーニョ現象とラニーニャ現象がもたらす世界的なリスクについては、次回詳しく述べよう。
■人物略歴
かまた・ひろき
京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。「科学の伝道師」を自任し、京大の講義は学生に大人気。