週刊エコノミスト Online鎌田浩毅の役に立つ地学

「温暖化」を超えるインパクト 寒冷化を引き起こす大噴火/6

 地球温暖化が世界中の喫緊の課題となっているが、地球上ではそれをはるかに上回る寒冷化現象がときどき起こる。歴史を振り返ると、大規模な火山噴火が気温低下を引き起こし、地球温暖化に一定のブレーキをかけた事例がある。

 1783年6月、アイスランドのラカギガル火山で割れ目噴火が起こり、世界的な寒冷化をもたらした。火山灰と二酸化硫黄などの有毒な火山ガスが、長期にわたって放出された。この結果、アイスランド国内にいた4分の3の家畜が死に、当時の人口5万人のうち、1万人が作物の不作により餓死したとされる。

 大気に放出された火山ガスは、北半球の全域を覆った。ガスに含まれる二酸化硫黄は大気中に存在する水と反応し、直径1マイクロメートル(マイクロは100万分の1)より小さい微粒子となる。これは「硫酸塩エアロゾル」と呼ばれ、太陽の日射光を遮る性質がある(図)。

 この結果、欧州では平均気温が約1度下がり、食糧不足が起きたほか、米東部フィラデルフィアでも気温の低下が観測された。1783年は遠く離れた日本でも全国的に厳しい不作となった。いわゆる「天明の大飢饉(ききん)」である。東北地方では冷害による飢饉が発生し100万人規模で餓死者が出たと推計されている。

 この年の5月、群馬・長野県境にある浅間山が噴火を始め、8月に大噴火が起き1500人もの犠牲者が出た。ちなみに、日本史の解説書には、天明の大飢饉は浅間山の噴火によって引き起こされたと記述したものがあるが、同年に起きたアイスランドでの大噴火が原因である。

 実際、ラカギガル火山が噴出したマグマの量は浅間山の30倍もあり、火山ガスも比較にならないほど大量に放出された。したがってラカギガル級の大噴火が起きると、世界規模の気温低下が生じる可能性が高いと考えられる。

気温が0・4度低下

 20世紀最大の噴火と言われるピナツボ火山(フィリピン)の1991年噴火では、硫酸塩エアロゾルが3週間で地球を取り巻き、北半球全域へと広がっていった。その結果、1992~93年の世界の平均気温は0・4度低下した。近年の地球温暖化現象にストップをかける効果を生み出した例である。

 実際、16世紀以降の異常気象と大規模な噴火に、相関関係が確認できるものが数多くある。よって、20世紀に入ってから世界の平均気温が上昇する傾向にあるのは、世紀の前半に大規模な噴火がほとんど起こらなかったからではないかと考える地球科学者も少なからずいる。

 ピナツボ火山で起きた規模の噴火は、世界各地でこの100年の間に10回ほど起きている。ラカギガル火山のようなさらに大規模の噴火も、100年の間に少なくとも1回は起きる。寒冷化が温暖化に勝るとも劣らない危機を人類に与えたことも考慮に入れておく必要がある。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学大学院人間・環境学研究科教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。「科学の伝道師」を自任し、京大の講義は学生に大人気。

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