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資源・エネルギー 鎌田浩毅の役に立つ地学

世界に夏が来なくなった19世紀のインドネシア・タンボラ火山大噴火=鎌田浩毅

「脱炭素」を考える/5 タンボラ大噴火で起きた寒冷化/57

 地球上では「想定外」の現象が平均気温などの環境に大きく影響を与える。火山の大噴火がその一例で、急激な気温低下を引き起こし、広範に飢饉(ききん)を発生させることもある。

 インドネシア・ジャワ島の東に位置するスンバワ島のタンボラ火山は1815年4月5日、突然の噴火によって火山灰を含む噴煙が高度3万メートルまで立ち昇り、大量の軽石と火山灰が地表へ降ってきた(図)。当時の記録によれば、山の斜面を高温の火砕流が一気に流れ下り、山麓(さんろく)の村落を焼き尽くしたという。さらに火砕流が海へ流入したことで津波が発生し、近くにある島の海岸を襲った。

 噴き上げられた大量の火山灰は、上空11キロより上の「成層圏」に達した後、全世界へ拡散していった。この噴火では55立方キロのマグマが地上に噴出したが、人類史上でも最大規模の噴火だった。噴火が終了すると山頂には直径6キロもの陥没カルデラが現れた。その結果、噴火の前に4300メートルあった山頂標高は1500メートルも低くなった。

 スンバワ島に暮らしていた1万2000人のほとんどが犠牲になり、周辺地域まで含めると死者の総数は9万人に達した。なお、この数字には噴火による直接的な被害だけでなく、噴火後に発生した飢餓と疫病による犠牲者も加えられている。

夏が来なかった

 この噴火は世界的な気候変動を起こした歴史上の事件としても知られている。というのは、噴火の翌年から北米と欧州では夏が来なかったからである。北米東岸の平均気温は例年より4度も低く、6月に襲来した寒波によって雪が降ったほか、池には氷も張った。また8月には霜が降りたため主要作物のトウモロコシが全滅した。こうした異常低温は翌年の1817年まで続き、米国北東部の農民の多くが西部へ移住していった。すなわち、インドネシアの巨大噴火によって発生した異常気象が、米国西部の開拓を促したとも考えられている。

 南極とグリーンランドの氷河を掘削して得られた氷を調べると、噴火翌年の1816年に当たる試料に硫酸イオン濃度が著しく高くなる異常が認められる。これはタンボラ火山から噴出した火山灰に付着しているもので、巨大噴火の影響が、数万キロも遠く離れた極地にまで記録されていたのである。

 19世紀最後の数十年間が寒かったのは、大規模な噴火が続いたせいではないかと考えられている。1883年のインドネシア・クラカタウ山、1886年のニュージーランド・タラウェラ山、1890年のアラスカ・ボゴスロフ山などが立て続けに噴火したからである。

 一方、20世紀はそれ以前の世紀と比べて巨大噴火がほとんどなかった。すなわち、大噴火による気温低下がなかったため、20世紀後半の温暖化が顕在化した可能性も否定できない。このように現在、世界で問題となっている温暖化は、1回の大噴火による急激な寒冷化で状況が一気に変わるかもしれない。


 ■人物略歴

かまた・ひろき

 京都大学レジリエンス実践ユニット特任教授・名誉教授。1955年生まれ。東京大学理学部卒業。専門は火山学、地質学、地球変動学。「科学の伝道師」を自任。理学博士。

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