カメラ業界の苦境映す老舗雑誌の休刊=永江朗
総合カメラ誌『アサヒカメラ』(朝日新聞出版)が6月19日発売の7月号をもって休刊する。「コロナ禍による広告費の激減により、誠に残念ではありますが、これ以上維持していくことが困難となりました」と同社のサイトは書いている。
『アサヒカメラ』の創刊は1926年。日本最古の総合カメラ誌であり、写真界の芥川賞とも呼ばれる木村伊兵衛写真賞の選考・発表にも深く関わってきた。同誌の写真コンテストには毎月数千点もの作品が応募され、アマチュアカメラマンにとっても休刊の衝撃は大きい。なお、木村伊兵衛写真賞は今後も朝日新聞社と朝日新聞出版の共催で継続される。
休刊に至った直接の原因は広告収入の激減だが、部数の低迷も続いていた。第三者機関として新聞・雑誌の実売部数を公査(監査)している日本ABC協会のデータによると、直近の2019年下半期の同誌の実売部数は1万4815部で、前年同期比マイナス13・7%。10年前の09年下半期は3万2015部、15年前の04年下半期は4万8509部だったから、急激に販売部数が落ちていることが分かる。かつては毎号欠かさず購読していた筆者も、この10年ほどは遠ざかっていた。
4月には『月刊カメラマン』(モーターマガジン社、78年創刊)が休刊。最終号となる5月号には休刊の告知がなく、次号予告が載っていたから、まさに突然の決定だ。
カメラ雑誌苦境の背景にはカメラと写真を取り巻く環境の激変がある。ケータイ・スマホの普及で、誰もが写真を撮るようになった。観光地や祭りではスマホを構えていない人を探すのが難しいほどで、いまや告別式ですらスマホで撮影する参列者が珍しくない。そして、その写真(というよりも「画像」と呼ぶべきか)はSNSにアップされ、瞬時に共有される。
総合カメラ誌に広告を出すカメラ業界も、スマホに侵食されて市場縮小が続いていたところを、新型コロナウイルスが襲った。見本市の中止や販売店休業などによりデジタルカメラの売り上げは激減し、3月は前年比半減ともいわれる。老舗カメラ雑誌の休刊は、カメラ業界の未来を暗示しているのだろうか。
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