「築地市場の豊洲移転問題」小池都政最大の汚点を都庁官僚が告発=田代秀敏(シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)
小池百合子都政の最大のブラックボックスは、迷走に迷走を重ねた「築地市場の豊洲への移転問題」である。
「もう済んだことだし、この話はこれで終わりにしよう。
そんな声が聞こえてくる。
「しかし、関係者全員が過去を思い出話にすり替えて忘却の彼方にやり過ごそうとしているとすれば、それは違うと言わざるを得ない」と述べる本書の著者に共感する。
豊洲市場の建物下に拡がる巨大な地下空間の映像が全国を震撼させていた最中に、危機対応の為の急造ポストである東京都中央卸売市場次長(局長級)へ異動した都庁官僚が、市場移転問題を忘却させない為に定年退職後に著したのが本書である。
「市場移転問題とは、平成の30年間の長きにわたってロングラン公演された滑稽な群像劇、しかも出演者はエキストラを含めて全員が自己チューで身勝手で、そのくせ自分では何も決めない人物ばかりという前代未聞の『非決定の物語』だった」
その「問題を政争の具に利用し尽くした知事」も、ブレまくる。
「ゆりこのゆりもどし」と市場当局が呼び習わした「一度決まったことを平気で揺り戻そうとする」言動パターンは、「何かにつけてのあやふやな態度(決して本心を見せず、取り巻きの意見に左右され、その場その場の有利不利だけで判断する態度)」と相まって、迷走の度合いを更に深めていく。
「勝負勘が鋭い」だけに「発言は必ず何か意図を持って発せられている」。
しかし「小池知事の最大のスキルは、ずば抜けたはぐらかし力である」。
「凡人には知事の考えは理解不能であった」と嘆きながらも、著者はインサイダーしか知り得ない「発せられなかった言葉、記載されなかった言葉」を振り返り、「真実の輪郭」を浮き上らせようとする。
「地方官僚は権力が暴走・迷走・逆走を始めた時、静かに(だが意を決して)抵抗を試みなければならない」と自負する著書であるが、「こと都庁官僚組織に限れば、これほど有事に弱い組織も珍しい」、「都庁の基本は現在・過去・未来にわたって、他力本願的、殿様商売的、状況受動的構えである」と嘆く。
実際、都庁は「豊洲市場に5800億円もの巨額を投じ」ながら、「50年後、60年後を見据えた収支計画をろくに持っていなかった」。
そうした「巨大で愚鈍」な組織を、「目立つことを最優先する知事」は、「自分ファーストの合目的的な変わり身の早さ」で翻弄し、「パンダさえも己の政争に利用する」。
その「苦い苦い経験」からの教訓をこう述べて、著者は締め括る。
「決めるべき時に決めずに先延ばしすることこそが、最も愚かな行為であり、最も危険な(自らを滅ぼしかねない)行為である。人はそのことをすべてが終わった後に初めて思い知らされる」
『築地と豊洲 「市場移転問題」という名のブラックボックスを開封する』
都政新報社 1700円
著者 澤 章(元・東京中央卸売市場次長)
1958年長崎県生まれ。一橋大学経済学部卒業後、東京都庁入都。知事本局計画調整部長、中央卸売市場次長等を経て、現在、東京都環境公社理事長。著書に『軍艦防波堤へ』など。
(評者)
評者 田代秀敏(シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)