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国際・政治 新型コロナ・パニック

「上級国民」たちがコロナ対策そっちのけで「東京オリンピック」にこだわっていたワケ(前編):「IOC関連団体」理事に名を連ねる「森喜朗元首相」=後藤逸郎

東京オリンピック・パラリンピックの開催延期について説明する大会組織委の森喜朗会長(左)と武藤敏郎事務総長=東京都中央区で2020年3月24日午後9時53分、宮間俊樹撮影
東京オリンピック・パラリンピックの開催延期について説明する大会組織委の森喜朗会長(左)と武藤敏郎事務総長=東京都中央区で2020年3月24日午後9時53分、宮間俊樹撮影

新型コロナウイルス対策として全土に緊急事態宣言が出されている日本。

だが安倍首相がIOCバッハ会長と電話協議を行い「東京オリンピックを延期」することが決定されたのは、つい1カ月前のこと。

その後「緊急事態宣言」の発令を渋る政府に加えて、小池百合子都知事が会見でロックダウンの具体策よりも「東京オリンピック延期」に先に触れたことで、海外メディアからも批判を受けたことも記憶に新しい。

なぜ「上級国民」たちは「オリンピック開催」に必死なのか?

知られざる「IOCとオリンピックビジネスの闇」を暴く書籍『オリンピック・マネー』(後藤逸郎著、文春新書)より抜粋をおとどけします。

IOCメンバーの「ウラの報酬」はあるのか?

スポーツを通じて平和を希求する──。単純明快で誰も反対しようのない高邁な目標を掲げるIOCだが、その組織は複雑だ。

IOCは自らをスイスに本拠地を置くNPO兼NGOであると五輪憲章第2章で定義している。

IOCは1894年6月23日に設立登記され、法人格はNPOの一種である協会(アソシエーション)だ。

レマン湖畔のローザンヌに住所があり、財源はテレビ放送権、スポンサーシップ、ライセンス、オリンピックの財産などとある。組織は会長、副会長4人、10人の理事で構成するとあり、バッハ会長や副会長、委員らの名前と出身地が記されている。

IOCメンバーの報酬は当初なかったが、2015年4月、バッハ会長の報酬が年間22万5000ユーロ(2947万円)であることが公表された。

ソルトレークシティ五輪での不正疑惑後、IOCは倫理と透明性を高めるため、2014年12月に中期改革「アジェンダ2020」を制定した。それによって報酬も開示されたのだ。

定員115人のIOC委員は年間6470ユーロ(84万円)であり、会議や出張の日当は400ユーロ(5万2400円)。IOC理事には800ユーロ(10万4800円)が支払われていた。サマランチ、ジャック・ロゲ会長時代は無報酬だったこともある。

これらはそれほど高額ではない。しかし、たとえば会長にはローザンヌのパレスホテルが住居として提供されてきた。フランスのデザイナー、ココ・シャネルが滞在していたという「ココ・シャネル・スイート」を、サマランチ会長は愛用していた。

2013年8月4日付朝日新聞は「IOCが公表した(19)98年のサマランチのローザンヌのホテル代、生活費は20万4000ドルだった」「2012年のロゲのホテル代、旅費などは計70万9000ドル」と伝えている。

IOCはバッハ会長のホテル代について公表していない。IOCは、「IOC会長を含むすべてのIOC運営の任務費用は、IOC財務諸表の項目『輸送、旅費および住居費』の一部として開示されている。現在の永住資格は前会長と異なり、比較は正しくないため、宿泊施設の扱いは国際会計基準(IFRS)に沿っている」と説明している。

IOCの関連団体は「隠れ蓑」なのか

また、バッハ会長をはじめとする理事は、IOCが設立した財団や、子会社、孫会社など、いわゆる関連会社(図)の役員も務めている。これらの財務、報酬は非公開であることが重要なのである。

そのうちの一つ、オリンピック財団は1992年12月、スイスのNPOとしてローザンヌ市のIOC本部と同じ住所に設立登記された。

設立目的は「文化、教育、スポーツの分野でオリンピックムーブメントの活動支援」とだけある。

初代理事長は当時のサマランチIOC会長が務め、現在はバッハ会長が兼務する。理事はアニータ・デフランツ副会長、サマランチ元会長の息子であるアントニオ・サマランチ副会長、中国オリンピック委員会副会長の于再清副会長、トルコ・オリンピック委員会会長のウグル・エルデネル副会長ら、IOC幹部が名を連ねる。

だが、その活動はほとんど公表されていない。

IOCは2000年末の財務報告で、「IOCとオリンピック財団、オリンピック博物館の個別の財務諸表を初めて作った」ことを明らかにしたが、具体的な数字は表記していない。

2004年末の財務報告では、オリンピック財団はIOC傘下のマーケティング会社「メリディアン・マネジメント」(当時)を「保有」し、同じく傘下の映像配信会社「オリンピック・ブロードキャスティング・サービス(OBS)株式会社」の「株式の99%を保有」しているとした。

財団はIOCと別組織だが、関連会社を統括する持ち株会社として機能していることをうかがわせる。

オリンピック文化遺産財団(OFCH)は1993年12月に設立登記されている。法人格はNPOの一種である財団(ファウンデーション)だ。

ローザンヌ市内にあるオリンピック博物館の運営主体として設立された。最初の名前はオリンピック博物館で、2015年に現在の名前に変更された。バッハIOC会長がここの理事長として登記されている。

OFCHは定款も公表しており、理事会メンバーは無報酬としている。ただ、経費の払い戻しや年次補償を受ける権利も併記されていて、その金額は未公表だ。

OFCHはNPOとして独立した法人格を持つが、IOC内部では組織の一部として取り扱われている。2019年6月に開催された2020年東京大会のアニメ製作発表会で、フランシス・ガベOFCHディレクターは「IOCのひとつの部署」と自己紹介している。

オリンピック普遍的倫理財団(FEOU)は、2001年にローザンヌ市内のIOCと同じ住所地に設立登記された財団だ。設立目的は、IOC倫理委員会の支援とある。IOC倫理委員会は、IOC委員や職員の不正を調査する部門で、ソルトレークシティ事件でもIOC委員追放に関わり、2020年東京大会の疑惑でも竹田氏を調査した。

この財団の奇妙なところは、FEOU理事長である潘基文元国連事務総長が、IOC倫理委員会の委員長も務めていることだ。同一人物がトップを兼ねる二つの組織の片方が、もう片方の活動を支援していることになる。

国際オリンピック休戦財団は2000年7月、スイスのNPOとしてローザンヌ市のIOC本部と同じ住所地に設立登記された。目的は「オリンピックの理想を推進し、世界の平和、友情、理解に貢献する。ギリシャ共和国政府と協力して、オリンピック休戦の国際センターの設立」。IOC会長が同財団理事長を兼務し、現在はバッハ会長が務める。森喜朗元首相も理事として名を連ねる。

「疑惑」を晴らすには情報公開が必要だ!

IOCは、複雑なグループ組織の構造も、オリンピック憲章に基くIOCの目的を達成するための必要な措置であると言う。しかし、われわれがそれを検証しようにも、情報が公開されていないという壁がここでも立ちふざがる。疑問があって調べても、スイスの法制というブラックボックスへと消えてゆく。

IOCが不正を働いていると断じるわけではない。IOCが単なる巨大なスポーツ興行主ならばこれでいいかもしれない。

しかし、オリンピックが国際的な「平和の祭典」であり、それゆえ巨額の税金も投入される以上、その財務の詳細については、法制や税制の枠を超えて、広く公開されるべきではないだろうか。

NPOに詳しい長坂寿久・元拓殖大学教授は、「NPOであるIOCは巨額の資金を集めており、NPOの身内で収益を山分けしていると疑われかねない。きちんと情報公開すべきだろう」と話している。

(後藤逸郎著『オリンピック・マネー』より抜粋)

■後藤逸郎(ごとう・いつろう)

ジャーナリスト。1965 年、富山県生まれ。金沢大学法学部卒業後、1990 年、毎日新聞社入社。姫路支局、和歌山支局、大阪本社経済部、東京本社経済部、大阪本社経済部次長、週刊エコノミスト編集次長、特別報道グループ編集委員などを経て、地方部エリア編集委員を最後に退職。

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