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「アベノマスク」「中途半端なロックダウン」……日本で「ざんねんなコロナ対策」が実施されてしまう【サンデー毎日】5つの理由」(前編)【サンデー毎日】
安倍晋三首相が4月16日、「一律10万円の現金給付」を言い出した。諸外国はとっくに
実施している政策だ。
なにかにつけ行動が遅く、主要国とかけ離れた日本の新型コロナウイルス対策。
なぜ立ち遅れているのか。何が壁になっているのか。
PCR検査を抑制した理由は「経済対策」?
「なぜすぐに検査を受けられたのか」
インターネットにそんな書き込みが噴出したのは、「報道ステーション」(テレビ朝日)の富川悠太アナウンサーが感染したことが判明した直後だ。
「発熱が何日も続いても保健所に検査を拒まれる」という声が多い。
日本にある米国大使館のウェブサイトには、自国民に向けた4月3日付の「衛生警告」が載っている。
〈日本政府は検査を幅広く実施しないという決定をしており、新型コロナ感染症の有病率を正確に評価することは難しい〉
日本の検査数はどのぐらい少ないのか。
統計サイト「ワールドメーター」は、各国の衛生当局が発表したデータを一覧表示している。
それによると、日本の人口100万人当たりの検査数は762件(4月17日夜現在)。同サイトが取り上げる213カ国・地域の中、115位だ。
先進7カ国で最多のドイツは約2万件、日本に次いで少ないフランスも5114件。経済協力開発機構に加盟する36 カ国中、日本より少ないのはメキシコだけ。
日本が異常に少ないのは明らかだ。
前新潟県知事の米山隆一医師はこう説明する。
「PCR(遺伝子検査)が少ないのは、厚生労働省のクラスター対策班が不合理なこだわりを持っていることに起因すると考えています。つまり、『医療リソースを可能な限り温存し、公衆衛生的手法で解決できる』という考えが問題です」
クラスター対策班は感染者が増え始めた2月25日、厚労省が設置した。
東北大の押谷仁教授(ウイルス学)感染症の専門家からなり、「クラスター」(感染者の集団)の早期探知などを目指す。
「対策班は『PCRを増やせば希望者が医療機関に押し寄せ、医療現場が崩壊する』と踏んだ。しかし、希望者と他の通院者の動線を明確に分けるなどすれば、PCRを増やすことは可能でした。もっと検査して軽症者や無症状者を把握し、自重してもらわないと、感染がさらに拡大してしまいます」(米山氏)
検査体制の拡大に慎重だった大阪大の宮坂昌之名誉教授(免疫学)は、考え直した。
「これまで大量にスクリーニング(検査)できる体制がなかったのが何より問題です。多くできることに越したことはありません」
対策班を所管する厚労省健康局結核感染症課の加藤拓馬課長補佐は、本誌の取材に「経済の停滞を危惧して抑制してきた」と認める。
今後は「迅速検査システムの開発が急ピッチに進み、ほどなく必要な人には行き渡る体制が整備されつつある」という。
ロックダウンはしない?できない?
安倍首相は4月17日、新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づく「緊急事態」を全国に拡大した。住民の外出や酒場などの営業を自粛するよう要請できるが、強制力はない。
一方、海外では多くの国や地方が違反者に罰金を科したり、拘束したりする「ロックダウン」(都市封鎖)に踏み切った。
感染者数が世界最多の米国では、50州のうち40州以上が住民の食料の買い出しや通院、体調維持のための運動など生活維持に必要な外出を除き、外出を禁じる。
ヨーロッパでも感染者数が多いスペイン、イタリア、フランスなど大半の国が同様の措置を取る。いずれも違反者を検挙できる内容が多い。
日本はロックダウンせずに感染爆発を防げるのか。
クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の内実を訴えた神戸大の岩田健太郎教授(感染症内科)が言う。
「ロックダウンとは、感染者数が多い対象地域に人が行かない、対象地域から人が出ない、そして外出しないこと。東京や大阪では自粛要請だけでは弱く、ロックダウンをすべきです。満員の通勤電車が大丈夫なわけはなく、夜ばかりでなく昼の活動制限も重要です」
3月に同志社大を退職した川本哲郎元教授(刑事法)は長年、「感染症と人権」を研究テーマにしてきた。
「これまでの感染症対策は偏見や差別に直面したため、『必要な最小限度』が求められています。特措法に罰則を設けるには、国会の議論に時間がかかります。ロックダウンをするかどうかは別として、将来は禁止措置まで考えるべきです」
では、他国がロックダウンができるのはなぜか。
「イタリアでは感染爆発し、米仏英も状況がひどい。日本は感染者も死者も桁違いに少ない。もう一つは、欧米ではテロが多発したことで、危機対応が早いのです」(川本氏)
評論家の潮匡人氏は、かつて航空自衛隊の法務幕僚として防衛法制を担当した。
「欧米の主要国には憲法に緊急事態条項があります。日本とは違い、平素から危機管理や安全保障について、社会が共有しています。だからパンデミックが起きた今、強硬な措置が取れる」
日本は戦争やテロに限らず、国家的な危機対応の整備が立ち遅れているようだ。
鈴木隆祐・ジャーナリスト
渋井哲也・ジャーナリスト