「どうぶつの森」特需 新作販売の遅延はリスク=白鳥達哉
新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、外出をひかえた消費者による「巣ごもり需要」が高まっている。特に大きな特需が生まれたのが、3月20日に任天堂が発売したニンテンドースイッチ用ソフト「あつまれ どうぶつの森」(どうぶつの森)だ。
ゲーム総合情報メディア「ファミ通」の調査によると、同タイトルは発売開始3日間で店頭販売本数は188万本を記録。歴代1位だった「ポケットモンスター ソード・シールド」の136万本を大きく更新した。4月5日時点には、累計販売本数が300万本を超え、数字が明らかになっていないダウンロード版の販売本数もここに加わる。(ゲームの未来)
エース経済研究所の安田秀樹シニアアナリストは、「3月という時期にもかかわらず、クリスマス商戦と変わらない売り上げとなっている」と驚きを隠さない。ニンテンドースイッチ本体の販売台数も、どうぶつの森発売以降に大きく伸びており、販売4年目のゲーム機としては異例の事態だ(図)。
ソニーのプレイステーション4も、ニンテンドースイッチほどではないものの、本体の販売数は伸びており、ゲーム業界の多くの部分で、新型コロナによる需要の押し上げが出た格好だ。
しかし、新型コロナの影響が長く続けば、事態は変わってくる。一変して厳しい状況に置かれることは間違いない。
KADOKAWAゲームリンケージで『ファミ通ゲーム白書』の上床光信編集長は、「新型コロナの感染拡大や景気後退が数カ月で終息すれば、ゲーム企業経営への影響は比較的小さいだろう。しかし、深刻な景気後退が長期に及ぶと、必需品ではないため、真っ先に支出が削られる可能性もある」と指摘する。
また、好調のニンテンドースイッチも品薄状態が続いている。「実は生産能力は3月時点である程度回復しているようだが、お店に買い求めに来る人が集まると新型コロナの集団感染の危険性も高まるため、任天堂としても出荷には慎重にならざるを得ない」(エース経済研究所の安田氏)。
突然の「審査休業」
ゲーム開発という面でも、すでに影響が出始めている。ゲーム企業の多くがリモートワークに対応するなかで社内連携がうまくとれなくなっているのだ。大手ゲーム企業に所属する男性社員は「いくつかの社内プロジェクト開発案件のスケジュールに遅れが生じている」と話し、あるフリーランスゲーム開発者も「開発効率が悪くなっている人もいる」と語る。
ゲームソフトの開発現場では、動作チェックやエラーの発見を行うために、「開発機」と呼ばれる特殊なゲーム機が使われる。しかし、開発機は守秘義務などの関係から外部に持ち出すことができないことも多い。開発現場とリモートワークの相性の悪さという業界特有の事情に対して、各企業も対応を苦慮している。
もう一つの問題は、「コンピュータエンターテインメントレーティング機構(CERO)」が緊急事態宣言を受けて、突然の休業状態に入ってしまったことだ。
CEROはゲームソフトの内容に含まれる、暴力、性的、反社会的などの表現内容から、対象年齢を決める審査を行っているNPO法人で、業務用を除くゲームソフトであれば、ほぼすべてのゲームが発売前にCEROによる審査が必要となる。しかし、今回の休業によって審査業務が滞り、新作ソフトの発売スケジュールに遅れが生じる可能性が出ている。
現在、CEROは緊急事態宣言に合わせた5月6日までを休業すると発表しているが、状況によってはさらに時期が延びることもあり得る。今回の対応ににゲーム業界全体が振り回される形になっている状況から、日本での発売をいったん延期して、海外展開を優先するといった対応を協議している企業もあるという。
今は思わぬ恩恵が出ているゲーム業界だが、その先にひかえる反動も大きなものになりそうだ。
(白鳥達哉・編集部)