インド 首都の歴史的景観 喪失の危機=成田範道
政府が昨年開始した首都ニューデリー中心部の官庁街、「セントラル・ビスタ」(中央眺望)の再開発計画に対し、各方面から反発が強まっている。
同地区は1911年、ニューデリーが英領インドの首都となってから建設が始まった大統領官邸、国会議事堂、官庁ビル群、インド門などからなる官庁街で、インドの独立後もその役割は引き継がれて今日まで至っている。独特の景観は、ユネスコ世界遺産である歴史都市デリーの中でも、大きな魅力の一つだ。
再開発計画は、国会議事堂に隣接する近代的な新議事堂の建設を中心に、同地区の官庁ビル群も一新。実現すれば景観が一変することは避けられない。歴史家、建築家、野党政治家などは、計画は歴史的価値を無視している上、識者との協議もないと反対。政府が強引に計画を進めるのは、次回選挙での政争の具とするため、モディ首相の個人的な威信高揚のためだとの指摘もある。真の動機は不明だが、現状はコロナ禍にもかかわらず計画を推し進めており、急ぎ過ぎの感は否めない。
100年以上の歴史を持つデリー中心部の景観は、拙速に失うにはあまりに惜しい。政府には、一度立ち止まって熟考してもらいたいものだ。
(成田範道・在インド翻訳家)