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教養・歴史 書評

『「経理」の本分 部署の存在意義、業務の原則、部員の心得』 評者・加護野忠男

著者 武田雄治(公認会計士) 中央経済社 2300円

企業経営で経理任務とは何か 本質的な問いに正面から挑む

 こんな本を待っていた。経理部は、企業経営や会社統治の基幹となる部署である。最近の日本では、海外の機関投資家の要求に応える形で会社統治のあり方が大きく変えられつつある。そこでは組織機構や組織編制の具体的な規則の改変が優先され、そもそも会社統治とは何か、そこにおける経理部門の任務は何かといった本質的な問題は問われていない。大きな変革期にルールを守ることに汲々(きゅうきゅう)としていると大きな誤りを犯してしまうリスクが大きい。

 ところが、本質的な問いをめぐる手がかりになるテキストがない。これまでの経理についてのテキストのほとんどは、本質的な問いに答えることよりも、経理の細かなルールやテクニックについて解説したものであった。そのような解説書も必要なのだが、経理にかかわる本質的な問いについて経営者や管理者の理解を深めてくれる書物が待たれていた。

 評者は、新聞の広告で本書のタイトルと副題を見て、躊躇(ちゅうちょ)なく注文した。手に入れて読んでみると、期待に正面から応えてくれる好書であることが確認できた。経理部員はもちろん、取締役や執行役員にも読んでいただきたい書物である。

 著者は、経理の主たる業務を六つに分け、それを日常業務、決算業務、サポート業務の三つにまとめ、なすべき業務遂行の原則、持つべき姿勢を分かりやすく解説している。本書で取り上げられる問いは経理部員だけでなく、経理部を利用する経営執行部にとっても本質的な問いである。

 本書ではまた、個々の経理部員が自己の価値を向上させるための心得が26カ条にわたって書かれている。自己の市場価値を高めるというさめた視点は経理部員にとって特に重要である。経理の仕事には業務ラインの上長と対立しても貫くべき原理・原則があるからだ。そこで安易にラインの要望に応えてしまうと、かつての東芝のような経理不正を犯してしまう。ラインから嫌われる勇気を持つためには、守るべき原則が順守できなくなればいつでも外へ出るという姿勢で仕事をすることが必要なのである。そのためには自ら市場価値を高めておくことが必要である。

 本質的な問いに対する著者の解答に異論のある読者がいるかもしれない。本書が問うているのは、誰もが同意できる解答を引き出すような、そんな簡単な問題ではない。本書をテキストにして、経理部の内部で自分たちの使命を議論してほしい。この議論をもとに経理部門の管理職は、自らの思想信条に合わせた解答を確立してほしい。

(加護野忠男・神戸大学特命教授)


 たけだ・ゆうじ 関西学院大学商学部卒業後、KPMG(現あずさ監査法人)、東証上場企業財務経理部門等を経て、武田公認会計士事務所所長。著書に『「経理の仕組み」で実現する 決算早期化の実務マニュアル』など。

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