教養・歴史書評

『AIとカラー化した写真でよみがえる戦前・戦争』 評者・平山賢一

著者 庭田杏珠、渡邉英徳(「記憶の解凍」プロジェクト) 光文社新書 1500円

先端技術が過去と現在をつなぐ 暖色のニュアンスが伝えるもの

 1941年から46年までのモノクロ写真を、先端の技術と記憶の断片をつなぎ合わせてカラー化し、分断されていた戦時期と現代の橋渡しをしようと試みた作品である。

 興味深いことに、経済に関する戦時の疑問が、目から鱗(うろこ)が落ちるように珠玉の写真を通して解読されていく。例えば43年の移動講演隊による貯蓄奨励キャンペーンの写真からは、その講師と聴衆の熱気の沸騰が感じられ、戦時に人々を貯蓄に走らせた理由の一端が見えてくる。また、45年の英軍占領後のビルマで、大量に散乱する日本軍の軍票(占領地で日本軍が発行した軍用手票)に埋もれるジャーナリストの写真からは、無茶な紙幣発行の成れの果てが衝撃を持って迫ってくる。教科書の中で閉じ込められた平板な二次元の写真からとび出した事実が、三次元化され、今にもつながる現実として追体験できるのだろう。戦時は、遠い世界の出来事ではなく、常にわれわれにもつながっていると強く感じる。

 ところで、伝え方を工夫するだけで、過去の人々が、さも今を生きているように感じるのはなぜだろうか? 41年の写真に見られる生き生きとした子供たちの笑顔は、近所の公園で遊んでいる現代の小学生たちと寸分も変わらないからなのであろう。モノクロとは異なり、温かみの感じられる表情からは、戦前にも私たちと変わらない暮らしをイメージできるからに違いない。

 一方、同じ暖色でも、戦火の暖色は心痛を超えたやるせなさで心を縛り付ける。真珠湾での戦艦の火柱、火炎放射戦車による炎の照射、大空襲で広がる爆裂の平原、そしてオレンジ色だったとの証言のある原爆のきのこ雲。すべてが、これまで経験したこともないような強烈な印象を残していく。それだけに、どの時代の人々も、現代を生きるわれわれと同じだとすれば、読者は、歴史のリフレインへの監視を怠るべきではない。同じ戦火の色に染める道への歩みは、変えなければいけない。

 現代を生きるわれわれは、AI(人工知能)の発展により、自らの得意とする五感・感性を研ぎ澄ませて、「新しい伝え方」に接することができるようになった。今後は、多様な伝え方で過去と現在、そして未来をつなぎ、「変わらないもの」と「変えなければいけないもの」を橋渡しする試みが増えてくるはず。本書は、その一歩として、視覚にうったえる試みに成功した良書といえる。過去をよく知るものこそ、未来をまたよく開けるとするならば、本書は、大いなる試みの一つと言えよう。

(平山賢一・東京海上アセットマネジメント執行役員運用本部長)


 にわた・あんじゅ 2001年生まれ。東京大学在学中。戦争経験者の「想い・記憶」をテクノロジーを生かして継承する活動に取り組む。

 わたなべ・ひでのり 1974年生まれ。東京大学大学院情報学環教授。庭田氏と2人で「記憶の解凍」プロジェクトを展開中。

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