中国 中国アニメ大盛況、羅小黒(ロシャオヘイ)の大活躍=辻康吾
中国をめぐってはコロナ、大洪水、領事館閉鎖など物騒な話ばかり。なにか楽しいことはないかと思っていたら、出会ったのはアニメの「羅小黒戦記」だった。原作は35歳の漫画家の木頭(ムートウ)。本名は不明だが、学生時代にぼんやりしていたので「木頭」(ぼんやり)と呼ばれたのを名前にし、通称はMTJJ。2011年、拾った子ネコを主人公とするフラッシュアニメを描き、19年にアニメ映画となり、爆発的人気を集め続編を次々と発表してきた。すでに日本でも上映されているが、私が手にしたのは書籍版で北京聨合出版の『羅小黒戦記1』だった。
あらすじは、人間の開発に森を追われたネコ型妖精の羅小黒が人間の家庭に入り、子供たちと仲良くなるが、他の妖精も現れ、新しい住みかを探して旅をするというもの。この間に奇抜な冒険と活劇が展開される。紹介資料によればテーマは「妖精と人間が、共存のための道を模索する物語」である。画風はデイズニーというよりジブリ風で、ジブリほどの精緻さはないが、主人公の羅小黒が可愛いのと激しい動きが面白い。
とかく豪華絢爛(けんらん)さや壮大さを好む中国臭さがまったくなく、日本のアニメファンにも素直に受け入れられているようだ。日本ではまだ小劇場での上映だが、観客は次第に増えている。中国国内では昨年中にすでに50億円の興行収入をあげており、なかなかのブームになっている。
「中国臭がない」と書いたが、それは「習近平がどうした」とか「米中関係はどうなるか」というようなことばかりを読んだり、考えたりしている私個人の印象で、この「羅小黒戦記」ブームからアニメに大喜びする若者がいる中国社会の一面が見えてくる。そこではニュースに現れるようなおどろおどろしい中国の姿はまったくなく、アニメ、コスプレに熱狂する世界中の「今の若者」たちがここにもいる。
実は数年前、友人の北京大学の教授のお嬢さんが志望大学に合格、父親が祝いに書籍代として3000元を渡したら、全部アニメとコスプレ衣装を買ってしまったと嘆いていた。目前の世界は難局、難問だらけだが、それを演じている今の世代が去れば、よい時代が来るのを夢見ている。
(辻康吾・元獨協大学教授)
この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。