教養・歴史書評

消費税の表示に揺れる出版界=永江朗

     書籍の価格をどのように表示するか。この問題をめぐって、出版界が揺れている。

     消費税法では消費税額を含む支払総額の表示が義務付けられている。しかし、現在、多くの書籍は、「定価(本体価格○○円+税)」、あるいは「定価 本体○○円(税別)」といった表示になっている。これは実は消費税法の特例措置により認められているもの。消費税率が変更されるたびに書店店頭や出版社倉庫の全在庫の表示を変えるのは負担が大きいという理由からだ。

     ただし、特例措置は来年3月31日までと期限が決められている。もし期間の延長がなければ、税込みの総額を書籍のどこかに明示しなければならなくなる。表示場所はカバーでなくとも、スリップ(本に挟まれている二つ折りの紙片。通常はレジで抜き取る)や帯でも可能だが、現状、多くの書籍はスリップや帯でも前掲の税別表示をしている。法令を字句通りに解釈するなら、来年4月1日以降は、カバーかスリップ、帯などで総額表示が必要になる。

     仮に来年3月以前に刊行されたものも含めて全ての書籍について総額表示をするとなると、膨大な作業が発生することが予想される。書店の店頭や出版社・取次の倉庫にある全ての在庫が対象となるからだ。

     また、来年4月以降に刊行される書籍に限定して適用されたとしても、将来、消費税率が変わるたびに同様の対応が必要となる。

     そこで想起されるのが1989年の消費税(3%)導入時の悪夢だ。出版社は税込み表示にするために、既刊本にはシール貼付などで対応したが、莫大(ばくだい)なコスト負担を強いられた。そのため、断裁・廃棄された書籍も少なくないといわれる。少部数発行や残部僅少の貴重な本ほど廃棄されやすい。

     こうしたことから、SNSでは「#出版物の総額表示義務化に反対します」のハッシュタグが拡散している。特別措置延長を求める声は大きい。

     もっとも、総額表示義務には罰則がないので、とりあえずは現状のまま、何の対応もしないという出版社の声も聞く。筆者としては、書籍・雑誌は非課税とするのが最良だと考えるのであるが。


     この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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