リスク5 米中摩擦 ファーウェイがスマホ撤退危機 大逆風のソニー、キオクシア=高口康太
米中対立、その最前線に立たされているのが中国通信機器・端末大手の華為技術(ファーウェイ)だ。米商務省は2019年5月15日、ファーウェイ及び関連企業を「エンティティーリスト」に掲載した。同リストに掲載されると、米輸出管理規則(EAR)に基づき、一部の規制品目についてはファーウェイに販売することが禁止される。日本など第三国の企業であっても米国の部品や技術を一定以上含む商品は同様に販売が禁止される。(記事の拡大版は以下↓をクリック)
絶体絶命かに思われたが、ファーウェイは「スペアタイヤ」戦略を宣言した。米国から半導体供給が断ち切られる日がくると予想して、子会社の半導体設計企業ハイシリコンに準備させていたとして、代替品を作り始めた。
ところが潮目が変わったのは20年5月のこと。米国は追加制裁を発表した。ターゲットとなったのはファウンドリー(半導体受託製造)世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)だ。ハイシリコンは優れた設計能力を持つが、設計だけでは絵に描いた餅でしかない。スマートフォンや基地局の高性能な半導体の量産をTSMCに依存してきたが、このボトルネックが狙われた。
ファーウェイにとって最後の頼みの綱となる汎用(はんよう)品の購入も20年8月の規制で禁止された。さらに米企業製のEDA(電子設計自動化)ツールを使って設計された半導体も禁止対象とされたため、ソニーのイメージセンサー、キオクシアのメモリーも販売禁止となった。EDAツールは米企業によって寡占されているために、論理的にはほぼすべての半導体が入手不可能となった。ただ、現実は複雑怪奇だ。規制対象でも、米政府が認めれば、ファーウェイへの輸出販売は可能だ。19年の規制以後、相当数の米企業が許可を得ていることが明らかとなった。20年8月の規制以後もインテル、AMDが得た模様だ。
また、焦点のTSMCも最先端技術を使わないケースに関しては、ファーウェイ向けの受託製造が認可されたと報じられている。
ソフトで生き延びる?
この騒動はどこに着地するのだろうか。答えはファーウェイが抱える事業ごとに異なってくる。ファーウェイは自社の事業を、(1)携帯基地局などのキャリア向け事業、(2)サーバーなどを企業向けに販売するエンタープライズ事業、(3)スマートフォンなどのコンシューマー事業──に大別している。
問題はスマートフォンだ。米クアルコムはトランプ政権に輸出許可を働きかけていたと報じられているし、台湾メディアテックは申請したことを公表している。また日本のソニー、キオクシアも許可を申請したことが報じられた。それでも米政権はスマートフォン向けの許可は出さないとの見方も根強い。仮に許可が下りなかった場合にはファーウェイのスマートフォン事業はほぼストップせざるを得ない。規制発効前に駆け込みで量産した、“最後”の自社製SoC(システム・オン・チップ=一つのチップでさまざまなシステムを実現する集積回路)の「Kirin1000」だが、業界関係者のリークによると約800万台分しか確保できなかったという。それでは今秋発売予定の「Mate40」の製造量にも満たない。
バイデン新大統領が誕生したとしても、米国の対中強硬姿勢に大きな転換はないとも指摘されている。すでにスマートフォンのサブブランド「Honor」の売却が取り沙汰されている。またアンドロイドに代替するOS「ハーモニー」については、IoT(モノのインターネット)家電やコネクテッドカーを統合するOSとしてさらに開発を進めていく中長期プランを発表している。万が一、半導体の供給が完全に断たれたとしても、ソフトウエア企業として生き延びる……。そんな未来まで見えてきた。
(高口康太・ジャーナリスト)