教養・歴史書評

『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』 評者・服部茂幸

著者 デヴィッド・グレーバー(文化人類学者) 訳者 酒井隆史/芳賀達彦/森田和樹 岩波書店 3700円

現代資本主義が生んだ無駄な仕事と低賃金仕事

 現在、ブルシット・ジョブ(無駄な仕事)が蔓延(まんえん)している。ここで言う無駄な仕事とは、世の中になくてもよい(もしくは有害な)仕事であって、社会には必要不可欠だが低賃金の仕事(こちらはシット・ジョブと言う)ではない。ブルシット・ジョブは誰も問題にしないが、1980年代以降の金融化された資本主義の中で急増していると本書は言う。

 評者が考えるに、その重要な要因は、2008年の世界金融危機が示すように、現在の金融は基本的にマネー・ゲームであり、場合によっては詐欺から成り立っていることである(この金融の変質自体が現在の資本主義の最大の特質だとも言える)。日本の銀行がこれらの技術に劣っていることが、その収益性の低さの理由の相当部分を占めるだろう。

 金融化とともに、トランスペアレンシー(透明性)、アカウンタビリティー(説明責任)なども重視されるようになった。それで、本当に企業の経営や、政治がきちんと行われるようになれば万々歳だが、残念ながら多くの場合は「きちんとやっているふり」である(この点では我が日本の政府は世界の最先端を走っていると言えるだろう)。これもまたブルシット・ジョブを拡大させる。

 ブルシット・ジョブに就いている人は、高賃金の場合でも、無駄な仕事をしているために苦しんでいるともグレーバーは言う。他方、社会に必要なシット・ジョブに就いている人々は、その低賃金のために苦しんでいる。しかも、ブルシット・ジョブに高給を払い、シット・ジョブには低い給料を払うようになっているのが現在の資本主義だと言う。

 ところで、無駄な仕事かどうかは、本書では基本的に自己申告で決めている。自分の出世のために公文書を偽造するという仕事は、ブルシット・ジョブだとほとんどの人が考えるだろう。これを押しつけられた下役はつらくて、自殺するかもしれない。けれども、命じた「偉い人」には、何よりも重要な仕事であると同時に、彼は「出世ゲーム」「権力ゲーム」を楽しんでいたのかもしれない。

 世の中にはこうした人間が一定数いて、遺憾なことに、こうした人間ほど出世することも、ブルシット・ジョブが拡大する理由の一つだろう。企業家や偉い人が「ブルシット・ジョブなどはあり得ない」と反論していると本書が書いていることは、評者の主張を傍証するだろう。

 なおグレーバーは今年9月に亡くなり、結果として本書は彼の遺著となった。この機会に評者はグレーバーに追悼の意を表する。

(服部茂幸・同志社大学教授)


 デヴィッド・グレーバー(David Graeber) 1961年ニューヨーク生まれ。文化人類学者、アクティビスト。著書に『負債論 貨幣と暴力の5000年』『官僚制のユートピア テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則』など。今年9月に急逝。

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