教養・歴史書評

『医療保険制度の再構築 失われつつある「社会保険としての機能」を取り戻す』 評者・柳川範之

    著者 西沢和彦(日本総合研究所調査部主席研究員) 慶応義塾大学出版会 2700円

    公平性や保険者自治確立に向けデータ活用法の具体案を提言

     医療保険は、多くの人にとってかなり身近な存在だろう。体調が悪くなって医者にかかることになれば、その存在を実感する。しかし、制度としての実態を分かっていると断言できる人はかなり少ないだろう。

     それは、現在できあがっている日本の医療保険制度が、かなり複雑なものになっていて、それを理解するにはなかなか骨が折れるからだ。本書の著者は、この分野に長年携わってきたエキスパートで、制度の内容や歴史的経緯を熟知している。

     その著者が、「国民皆保険」と言われた制度は形骸化が進んでおり、改めて、社会保険としての機能を取り戻す必要があるという危機意識の下に書かれたのが本書だ。

     もっと負担と受益が対応して、保険者自治が発揮される制度にすべきだという著者の主張が、歴史的経緯も含めた制度の詳細な解説と、厳密な言葉の定義づけとデータに基づいて展開されている。

     その内容は必ずしも分かりやすいとは言い難いが、それは著者の責任というよりは、現行制度の複雑さによるものだろう。また展開されている多くの提言や改革案のすべてに、評者が同意できるわけではない。しかし、そもそも社会保険における公平とはどうあるべきかという点にまで立ち返り、制度全体のあり方を議論する著者の骨太の議論は傾聴に値する。

     内容は、高齢者医療制度のあり方、国民健康保険制度と医療供給体制のあり方、オプジーボのような高額医療費の登場をどう考えるか、そしてデータの利活用をどう進めるべきかなど多岐にわたる。

     それらは、どれをとってもこれからの制度を考える上で重要な問題ばかりだが、例えば、働き方の変化と医療保険のあり方についての議論は、今後を考える上で避けて通れない重要な点だろう。

     多様な働き方が可能になってきている一方で、協会けんぽや厚生年金保険の被保険者になるのと国民健康保険の被保険者になるのとでは、状況がかなり異なることはよく知られている。本書では、白地に絵を描き直すような理念的改革プランではなく、具体的・現実的に、どのような制度変更によって、両者の違いを埋めていけるかが検討されている。そして、副業従事者や複数事業勤務者が増えていくなかで、健康管理に誰が責任を持つ制度にするのかという問題提起がなされている。

     このように、制度改革の実践的戦略が詳細に議論されているのも本書の大きな魅力の一つだろう。

    (柳川範之・東京大学大学院教授)


     西沢和彦(にしざわ・かずひこ)

     1965年生まれ。一橋大学社会学部卒業後、さくら総合研究所環境・高齢社会研究センター主任研究員などを経て現職。著書に『年金制度は誰のものか』などがある。

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