教養・歴史書評

『エクストリーム・エコノミー 大変革の時代に生きる経済、死ぬ経済』 評者・田代秀敏

    著者 リチャード・デイヴィス(経済学者) 訳者 依田光江 ハーパーコリンズ・ジャパン 2400円

    世界の極限の地を訪ね歩き経済の本質と未来を考える

    「本質というのは『踏み固められた道から離れた』場所で最もよく観察できる」が本書のモットーである。

     第1部「再生の経済」では、(1)インドネシアの大津波に襲われたアチェ州、(2)ヨルダン北部ザータリのシリア人難民キャンプ、(3)アメリカ合衆国ルイジアナの最重警備刑務所といった、経済が消滅した極限の場所を訪れる。

     そうした極限の場所でも、人間は非公式経済または地下経済を自発的に形成し、市場メカニズムを使って暮らしの再生を図る。

     囚人のほとんどが終身刑の刑務所の鉄格子の中で、独自のデジタル通貨が創り出され流通していく過程に、「貨幣の本質」が立ち現れる。

     第2部「失敗の経済」では、(4)パナマ地峡の自然豊かな交通の要衝なのに荒廃し忘れられた港町ダリエン、(5)地下資源が極めて豊富なのに収奪と貧困とが支配するアフリカ・コンゴ民主共和国の税率54%超の首都キンシャサ、(6)イギリスのイノベーションの発祥地であり産業革命の申し子の産業都市だったのに没落し今では平均寿命54歳の地方都市グラスゴーといった、「市場の失敗」が極限に達した場所を訪れる。

     経済の地獄巡りの果てに、「自由市場を自由のままにしておけば損害を生む場合もあるが、政府の干渉は損害を増幅する怖れがある」 という「外部性」の本質が見えてくる。

     第3部「未来の経済」では、(7)超高齢社会の縮図である秋田市、(8)世界初の電子国家であり、国と経済とをテクノロジーでくるむエストニアの首都タリン、(9)高度経済成長を達成し、南米で初めて新興国から先進国となった「経済の奇跡の国」チリの首都サンティアゴといった、未来の経済を先取りしている極限の場所を訪れる。

     秋田とタリンとには「困難を跳ね返す力や人の助け合いやレジリエンス(立ち直る力)」がある。一方、サンティアゴの人々が「直面している不平等は残忍なほどにひどい」。

     巻尾の「著者あとがきにかえて パンデミック経済」では、「極限(エクストリーム)経済の視点でCOVID−19を見る」ことを通じて九つの教訓が示され、本書全体が理論的に要約される。

     大槻奈那氏(マネックス証券チーフ・アナリスト)は本書について、「今やコロナで世界中が極限になっているからこそ、非連続なリープ(飛躍)が期待できる」と10月22日にテレビ東京『Newsモーニングサテライト』で指摘した。

     本書は、まったく新しい経済の出現を予感させる希望の書である。

    (田代秀敏、シグマ・キャピタル チーフエコノミスト)


     Richard Davis ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスのフェロー。英国財務省経済諮問委員会顧問、イングランド銀行エコノミスト兼スピーチライター、英“Economist”誌編集長などを歴任。ロンドンを拠点に数々の高級紙に寄稿している。

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