教養・歴史書評

取次大手の好決算は一過性か=永江朗

 出版取次最大手の日本出版販売(日販)を傘下に置く日販グループホールディングス(日販GHD)とトーハンが、それぞれ中間決算(2020年4月1日~9月30日)を発表した。日販は減収増益、トーハンは14年ぶりの増収増益となった。

 興味深いのはその内訳である。本業である取次事業については日販・トーハンともに赤字。ただし、コミックスは日販が前年同期比で29%、トーハンが32・5%と、大きく伸びた。コロナ禍による「巣ごもり需要」があったことと、『鬼滅の刃』シリーズのメガヒットによる。しかし、コミックスがこれだけ伸びながらも、雑誌(日販は14・9%減、トーハンは7・5%減)と書籍(日販は4・4%減、トーハンは1%減)が足を引っ張った。

 両社とも書店事業などの好調が増益に結びついた。日販はリブロプラス(リブロとあゆみブックスなどからなる)はじめ245店を、トーハンはブックファーストなど268店を展開する。ともに都心部の店舗、大型商業施設などに入る店舗はコロナ禍により休業や客数減の影響を受けたが、郊外店舗の伸びが大きく、黒字となった。

 返品率の改善も決算の好材料となった。日販は3・1ポイント、トーハンは4ポイント、前年同期に比べて改善している。しかしこれはコロナ禍により新刊書籍・雑誌の刊行が抑制されたことによるところが大きく、なんらかの大きな施策があったためではない。

「たら・れば」の話に意味はないかもしれないが、もしもコロナ禍がなかったら、また、『鬼滅の刃』がなかったら、はたしてどうだったろうか。好決算を素直に喜べない。

 トーハンも「中間決算概況」において「増収増益とはいえ、当中間期はコロナ禍による想定外の需要増加という一時的な要因に支えられた面があります。コロナの先行きが見通せず、構造的な問題である運賃上昇に歯止めがかからない状況から、むしろ厳しい現状認識をもって下半期に臨んでおります」と述べている。「巣ごもり需要」は読書の魅力・本の力というより、自粛要請下で他にすることがないからという消極的選択だった。まさにコロナ後の先行きは見通せない。


 この欄は「海外出版事情」と隔週で掲載します。

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