脱炭素 「原発552基分」の潜在力 急拡大する洋上風力ビジネス=宗敦司
経済産業省と国土交通省は2020年、長崎県五島市沖、秋田県能代市・三種町及び男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖(北側・南側)、千葉県銚子市沖の計5区域で洋上風力発電の事業者公募を開始した。21年中にもそれぞれの地域で事業者が決定され、いよいよ具体的に進むことになる。
洋上風力発電は、巨大な電源となる可能性がある。日本風力発電協会の試算では、着床式の洋上風力だけで128ギガワット、浮体式では424ギガワットという。原子力発電1基当たりが約1ギガワットなので、潜在力の大きさが分かるだろう。発電時でのCO2(二酸化炭素)排出はゼロ。しかも原子力と違って燃料を海外から輸入する必要もないので、エネルギー・セキュリティーにも大きく貢献する。
現在、この市場を狙って東京電力ホールディングスや関西電力など大手電力会社をはじめ、三菱商事、三井物産、住友商事などの大手商社、再生可能エネルギー事業者がこぞって計画を立ち上げている。事業主体が決まってくれば、次は実際に設計・建設が始まることになる。日本には洋上風力の大型風車メーカーは存在しないが、デンマークのヴェスタス社と提携する三菱重工業が供給可能だ。また建設では洋上風力発電設置に必要な自己昇降式作業台船(SEP船)を持つ五洋建設や清水建設のほか、プロジェクト全体をマネジメントする日揮ホールディングスや千代田化工建設にもチャンスがある。さらに鉄鋼構造物を供給する日本製鉄グループ、JFEグループなども注目される。ただ本格的な工事が開始されるのは22年以後となりそうだ。
燃料電池が受け皿に
一方、洋上風力発電は、陸上風力よりも少ないものの出力変動がある。また、台風などの強風時には安全のため運転を止める。従って、供給電力がショートしないためには需要を大きく上回る設備の形成が求められる。当然、余剰電力が生まれる。その活用法のひとつとして、電気分解で水素を製造することが考えられている。各地に建設される風力用の基地港に電解水素プラントを設置し、電力供給力が不足する際の発電用燃料として活用するほか、燃料電池自動車用にも供給可能だ。電解装置では日立造船などが製品を供給。また燃料電池は三菱重工や東芝、富士電機などが得意としている。
水素は他にも海外から輸入して電力や工業用途として使用するというグローバルサプライチェーンの構築が進められている。液体水素では川崎重工業が、水素をトルエンに合成したメチルシクロヘキサン(MCH)として輸入する実証を千代田化工建設が実施している。他には、水素をアンモニアとして輸入・活用することでは、日揮やIHIなどのほか、火力燃料の代替としての活用を考えている、各電力会社などもこの分野で実証を行っている。
水素に関しては全世界で開発・実証が加速し、一大ブームの様相を呈している。ただ、現状では燃料電池自動車がようやく普及してきたところ。トヨタ自動車や岩谷産業などが注目されるが、これが電力分野などに使われるようになっていくと、水素の需要量は大幅に拡大する。一大産業への発展が期待されている。
(宗敦司、エンジニアリング・ビジネス編集長)