資源・エネルギー注目の特集

脱化石で株価が3〜4倍に急騰、EVと再エネでぼろ儲けの金属資源の裏に国家戦争の影

    日米欧中の電池大争奪戦 政府と企業の胆力が試される=金山隆一

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    「ワシントン(米国)は、カナダを鉱物供給のための51番目の州とみなすようになっている」(儲かる金属)

     3月19日、こんな刺激的な米政府筋のコメントが載った記事が米国で流れた。電気自動車(EV)大手テスラやリチウム資源を開発するアルベマール、ライベントなどの米企業によるカナダでのEV材料生産を後押しするため、米商務省と企業が非公式の会議を行うという内容だ。カナダはリチウムイオン電池に使われるコバルトの生産で世界7位、リチウムの原料鉱石の生産国だ。

     日本では無名だが、アルベマールは時価総額2兆円の特殊化学品メーカーで、リチウム化合物に強い。ライベントはリチウムイオン電池と原材料の専業だ。両社の株価はこの1年で3、4倍に急騰した(図)。

     中国の希少資源獲得の先兵役としてアフリカなどで資源獲得に走るチャイナ・モリブデンの香港上場株もこの1年で2倍に急騰した。

    ケタ違いの電池使用料

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     すべては2050年のカーボンニュートラル(温室効果ガスの排出実質ゼロ)に向けた世界の動きがなせる業だ。

     炭素ゼロの柱となるのはEVと再生可能エネルギーである。ここに大量のレアメタル(希少金属)やレアアース(希土類)が使われる(表1)。

    「EV100万台を生産するには、リチウムイオン電池の主原料であるリチウムで年7150トン、コバルトで年1万1000トン必要。この量は18年の日本の内需に匹敵する」

     この試算は2月に公表された資源エネルギー庁の「2050年カーボンニュートラル社会実現に向けた鉱物資源政策」に載った。テスラが30年に目指すEVの生産台数は、この試算の20倍の2000万台だ。

     EV1台に使われる電池はスマホ1万台分、洋上風力の大型蓄電電池はEV数万台分の電池が必要とされる。

     問題は電池やモーターに使う資源が、特定国に偏在していることだ。リチウムはチリとアルゼンチン、電池のエネルギー密度を高めるコバルトはアフリカのコンゴ民主共和国、高性能モーターに欠かせないネオジム磁石に使われるレアアースは中国といった具合だ。

     産出国の偏在だけではない。例えばコバルトはスイスの資源商社グレンコアと中国資本で生産の6割を占めている。米国がカナダを51番目の州と捉え、企業と国ぐるみで戦う背後には「資源獲得戦争で負ける」という危機感があるわけだ。

     日本も手をこまねいていたわけではない。

     10年、双日は石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とともに豪州でレアアースを開発するライナス・コーポレーションが進める西豪州のレアアース開発とマレーシアの製錬事業に2・5億ドル(約270億円)の出融資を行い、日本の消費量の3割を確保した。

    豊田通商がリチウムを開発、生産するアルゼンチンのオラロス塩湖 
    豊田通商がリチウムを開発、生産するアルゼンチンのオラロス塩湖 

     豊田通商も10年からアルゼンチンでリチウムの粗原料となる炭酸リチウムの調査を始め、15年から豪州のオロコブレと合弁で生産を開始。福島県では22年からこの炭酸リチウムを原料に、日本で初めて水酸化リチウムの生産を開始する。

     ただし日本は、企業の垣根を越えた連携や国の関与、国際連携で世界に大きく遅れている。

    BMWに助成する欧州

     逆に、最も先鋭的なのが欧州だ。20年6月、ドイツ経済・エネルギー省は独電池大手のファルタ(VARTA)の蓄電池生産拠点の拡張に3億ユーロ(約400億円)を助成すると発表した。ファルタは「1969年に米アポロ11号でアームストロング飛行士が月面着陸したときに使用したカメラの電池に使われていた歴史ある企業」(ジェトロ・ミュンヘン事務所の高塚一氏)。

     ファルタだけではない。ドイツはBMWの蓄電池研究に総額6000万ユーロ(約80億円)、独化学大手BASFグループには蓄電池材料の研究に1億7500万ユーロ(約230億円)の助成を決めている。日本でいうならトヨタ自動車や三菱ケミカルに数百億円の助成を行うようなものだ。

    「EU(欧州連合)では、域内の競争条件をゆがめる恐れのある国家補助は原則として禁止されている。しかし欧州経済振興にかなうなど条件を満たせば蓄電池など特定産業に限定して助成を認めるようになった。仏独共同で成功した航空機大手エアバスの次を目指している」(高塚氏)

     第1弾の32億ユーロ(約4200億円)に続き、21年1月には、EU加盟の12カ国が共同で立ち上げた「欧州バッテリー・イノベーション」の開発に総額29億ユーロ(約3800億円)の助成を決めた。独仏伊、フィンランド、スウェーデンなど12カ国、42の企業が進める研究開発が対象で、電池の原材料から部品、製品、リサイクルに至るバリューチェーンの構築を後押しする野心的な取り組みだ。

     42社には域内に拠点を持つ米テスラも含まれており、日本企業ではフランスに拠点を持つ東海カーボンも参加する。

     欧州は域内全体では中国、米国に次いで世界で3番目に大きい自動車市場だ。20年に世界で販売されたEVとプラグインハイブリッド車300万台のうち、欧州での販売は約140万台と中国を初めて抜き、世界最大の市場になった。

    電池連合55社が国に提言

    住友金属鉱山の比ニッケル化工場。従来は精錬の対象とならなかった低品質のニッケル酸化鉱から、ニッケルやコバルトを回収できる。 住友金属鉱山提供
    住友金属鉱山の比ニッケル化工場。従来は精錬の対象とならなかった低品質のニッケル酸化鉱から、ニッケルやコバルトを回収できる。 住友金属鉱山提供

     韓国、中国の電池企業の工場誘致にも積極的だ。LGケミカルはポーランド、サムスンSDIとSKイノベーションはハンガリーで電池工場を稼働させた。

     また、EV用電池世界最大手の中国のCATL(寧徳時代新能源科技)は旧東独のテューリンゲン州で22年から14ギガワット時(50キロワット時のEVで約28万台分)の工場を立ち上げ、将来は24ギガワット時まで拡張する。これはCATL初の海外工場だ。江蘇省に本社を置くSVOLTもドイツのザールラント州に総額20億ユーロ(約2600億円)を投じ、EV用電池で30万台規模の工場を建設中で最大2000人の雇用創出を目指すという。

     危機感を持った日本の電池関連企業が動き出した。

     4月1日、電池関連産業の国際競争力強化を目的に日産自動車、ホンダ、マツダ、デンソーなどの自動車・部品メーカーやパナソニック、住友金属鉱山、旭化成、三菱マテリアル、東芝など55社が「電池サプライチェーン協議会(BASC)」を設立したのである。

     会長に就任したのは鉱山から製錬、リチウムイオン電池用正極材まで一貫で手掛ける住友金属鉱山の阿部功執行役員。阿部会長は「欧米では大規模な政府支援が行われており、政府への要望事項」として七つを提言した(表2)。リチウムなど資源開発の政府保証拡充、税制優遇、リサイクル材使用のインセンティブや研究開発への助成、EVの導入目標の提示││など踏み込んだ政策提言だ。

     住友金属鉱山としても「車載用電池はリサイクルまで考えていく必要があり、将来は企業間の垣根を越えた国家的、国際的な取り組みが必要と考えている」(阿部氏)という。

     欧州が17年に立ち上げた欧州バッテリー同盟(EBA)は「25年までに少なくとも毎年600万台のEVにバッテリーを供給できる体制を目指す」(EBA副会長)と豪語する。実際にその目標に向かって欧州は着々と手を打っている。

     プレーヤーの数が多すぎる日本は、均等な支援ではなく、特定の企業にどう巨額の支援を行うか、胆力が試されている。

    (金山隆一・編集部)

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