あのバフェット氏もイチ押しする、米S&P500株価指数のスゴさ=神崎修一
バフェット氏もイチ押し! 米S&P500の秘密=神崎修一
「一般投資家ならば、個別株よりもS&P500株価指数へ投資した方が賢明だ」──。米国の著名投資家のウォーレン・バフェット氏は5月1日、自身が率いる投資会社バークシャー・ハサウェイのオンライン株主総会で、株主たちにこう強調した。個別株にやみくもに手を出すより、米国を代表する株価指数のS&P500に連動する投資信託やETF(上場投資信託)を買うだけで十分な利益を得られるという意味だ。(最強の投資戦略)
S&P500とは、アップルやアルファベット(グーグル)など、米国を代表する500銘柄で構成する株価指数だ。11年初からのパフォーマンスを円建てに換算すると、S&P500は約4・5倍にも上昇。日経平均株価の2・8倍、TOPIX(東証株価指数)の2・1倍と比べても強さは際立ち、世界全体の株価の値動きを示す「MSCI全世界株指数(ACWI)」の2・9倍すらもかすんで見える(図1)。
S&P500に毎月1万円を積み立てで投資した場合はどうなるのか。S&P500は米国の株価指数だが、その値動きに連動するETFが東証にも上場されるほか、投資信託としても日本で販売されている。11年初から積み立て投資を始めたとすると、今年5月末の残高は約290万円にもなり、単純に毎月貯金した場合の125万円の2・3倍超にもなる(図2)。
米国を「丸ごと」買い
“投資の神様”として投資家から幅広い人気のバフェット氏。その卓越した投資手腕で、バークシャーを保険、貨物輸送、エネルギーなど多様な事業からなるコングロマリット(複合企業)に育て上げ、時価総額は現在、約6600億ドル(約72兆円)と世界10指に入る。そのバフェット氏はこれまでも、「妻に残す遺産の9割をS&P500のインデックスファンドで運用する」と公言してきた。
バフェット氏がこの総会の冒頭で示したのは、1989年と2021年の世界の時価総額の上位20社のランキング。89年のトップは日本興業銀行(現・みずほ銀行)で、都市銀行を中心に13社の日本企業が入っていた。しかし、30年が経過して顔ぶれは大きく変化。トップがアップルに入れ替わり、アルファベット、フェイスブック、アマゾン、テスラなど、大半を米国企業が占めている。
S&P500はこうした銘柄も含めて構成するが、なぜこれほど高い成果を上げられるのか。米国企業のグローバルな収益力や株主還元意識の高さなどが要因にあるが、指数の算出方法にもその秘密がある。それは、時価総額の大きな大型株500銘柄を対象として米国経済全体の成長を享受しながら、銘柄入れ替えも年に4回ほどあり、常に構成銘柄の新陳代謝が図られていることだ。
米指数算出会社「S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス」が算出するS&P500の構成銘柄は、ニューヨーク証券取引所と新興企業が中心のナスダック市場に上場している米国企業のうち、時価総額(浮動株調整前)が118億ドル(約1・2兆円=21年5月現在)以上が対象。東証1部で時価総額が1・2兆円以上の企業は約120社(5月現在)しかないのと比べると、米国株式市場の大きさがよく分かる。
そのうえで、創業者など特定の大株主の影響を排除するため、「浮動株比率50%以上」という基準を設けて市場での流動性を確保。また、4四半期連続で黒字という業績に対するハードルも設けることで、銘柄の新陳代謝を促す仕組みだ。米国株の指数では「ダウ工業株30種平均」も知られているが、株価水準の高い値がさ株の動きに大きく影響されるうえ、わずか30銘柄で構成するため市場全体の値動きを反映しにくい。
米株価では過去10年間、ナスダック市場の全上場銘柄で構成するナスダック総合指数が、S&P500を上回る高いパフォーマンスを示している。ただ、ナスダック総合指数は新興企業やハイテク関連銘柄が多く、その時々の半導体市況などによって値動きが荒くなる。資産運用に詳しい、びとうファイナンシャルサービスの尾藤峰男氏は「S&P500は、まさに米国経済を丸ごと買える世界最強の指数だ」と強調する。
「逆イールド」を参考に
S&P500は海外の株価指数であり、価格は日々変動する。目先の値動きについていけず、投資をちゅうちょする人もいるだろう。長い目で見た相場観の参考になるのが、米国の長期金利と短期金利の動きだ。短期金利が長期金利を上回る「逆イールド」が発生すると景気後退の予兆とされ、過去30年間ではITバブルの00年や、リーマン・ショック前年の07年に発生している(図3)。
楽天証券経済研究所が、米10年債利回りと2年債利回りの金利差と、1年後の米国株の騰落率を集計したところ、91年以降に逆イールドが発生した翌年の米国株の平均騰落率は3・3%下落となった。現時点では米国の短期金利は歴史的な低水準にあり、長期金利との利回りの格差もまだ十分にある。同研究所の香川睦チーフグローバルストラテジストは「長短金利逆転のリスクは常に意識する必要がある」と話す。
米国は今年1~3月期の実質国内総生産(GDP)成長率が前期比年率6・4%増と、先進国の中でも新型コロナウイルス禍からいち早く高い回復軌道に乗っている。S&P500は5月末時点で過去最高値圏の4200前後で推移するが、マネックス証券の岡元兵八郎チーフ・外国株コンサルタントは「米国の企業業績の回復はこれからも続くので、今後も持続的な成長が期待できる」という。
(神崎修一・編集部)