インフレに強い金 実質金利の低下で年末に最高値更新か=江守哲
市場分析 インフレに強い金&REIT ヘッジ需要で堅調な金 年末に過去最高値更新も=江守哲
金相場は徐々に堅調な地合いを強め、年末までに2020年8月に付けた高値である1トロイオンス=2072.49ドルを試す場面もありそうだ。これまで金相場の上値を抑えていたのは、投資家の金上場投資信託(ETF)の売却である。しかし、その動きは明らかに低下しており、最近ではむしろ買いが増え始めている。(最強の投資戦略)
世界的な金価格の指標であるニューヨーク金先物は、10年物の米物価連動債利回りと高い相関を示している(図)。物価連動債はインフレ率に応じて元本が調整される債券で、その利回りは市場が予想する将来のインフレ率を織り込んだ「実質金利」ともみなせる。足元では米金利上昇が市場の関心を集めるが、それ以上に米国のインフレ率が上昇すると見込まれているため、実質金利はマイナスの状態にある。つまり、米ドルの価値が実質的に目減りする状況の中で、ドル建てで表示される金価格が高止まりを続けているのだ。
こうした状況も踏まえ、5月19日までの1週間で、金ファンドに13億ドルが流入し、米物価連動債(TIPS)ファンドには過去24週間で最大の20億ドルが流入した。新型コロナウイルス流行を背景とする前例のない景気刺激措置や経済回復を背景としたコモディティー需要の増加と価格の上昇などから、インフレ懸念が高まっている。バンク・オブ・アメリカが実施した5月の調査によれば、ファンドマネジャーは市場にとって最大のテールリスク(確率は低いが発生すると影響が大きいリスク)を「インフレ」と位置付けている。
さらに、最近のビットコインなど暗号資産(仮想通貨)を取り巻く環境の悪化も、金相場の下支え要因になるだろう。「デジタルゴールド」と称されるように、暗号資産は本源的に金と同様の性格を持ち、一部の投資家が投資する動きも広がっていた。しかし、マネーロンダリング(資金洗浄)などに使われる恐れから、バイデン米政権の税制改革案に1万ドル以上の暗号資産の送金には内国歳入庁(IRS)への報告義務が盛り込まれるなど、各国政府の規制が強まる流れにあり、投資家が資金を暗号資産から金に移す動きが広がる可能性がある。
旺盛な中印の投資
投資家は、昨年11月の株価上昇局面から、金ETFを売却し、株式を購入する動きを継続してきた。この間に金価格は一時1700ドルを割り込む場面もあったが、その際に安値を拾っていたのが中国やインドの投資家である。彼らは年初から5月14日までに、金ETFをそれぞれ7.2トン、4.8トンを購入したほか、今年1~3月には実需として金現物をそれぞれ277.5トン、140トン購入している。これは、金現物に対する需要全体の55%に相当し、金価格を下支えしたといえる。
ワクチン接種の進捗(しんちょく)で経済活動の正常化が進む中、米連邦準備制度理事会(FRB)は量的緩和策の縮小の開始を議論し始めるだろう。一時的に金利が上昇し、金価格が押し下げられる場面もあろうが、最終的にはインフレが金利上昇を上回るペースで上昇し、実質金利が低下することで金価格は押し上げられるだろう。金価格は再び節目の2000ドルを回復し、年末までに過去最高値を更新する可能性も十分にあると考える。
(江守哲・エモリファンドマネジメント代表取締役)