日本株の行方 高値は3万2000円 海外マネーが流入へ=広木隆
世界中で猛威をふるっている新型コロナウイルスは、2021年に入って完全には終息しないがピークアウトすると認識している。「ウィズ・コロナ」が常態化し、それが普通である社会生活が送られていくだろう。ワクチンも治験を終え優先度の高い医療従事者等から段階的に投与が始まることで終息に向けた期待や安心感が広がる。ただし、完全には終息しないため各種制限は残る。(マーケット総予測2021)
経済では、飲食、旅行、移動、エンターテインメント等の分野は以前の状態には戻らない。しかしいち早く景気回復した中国の需要や、DX(デジタルトランスフォーメーション)、リモートワークの需要などにけん引されて新たに生み出される成長要因の寄与で相殺される。国内総生産(GDP)の水準自体はコロナ前に戻るのは難しいかもしれないが、景気は回復方向にあるという認識が株式相場の追い風になるだろう。
また、政治はコロナ対策と経済再開が政策の最優先事項であり続けるため、株式市場にとって好環境が続く(いわば「コロナ・ゴルディロックス」の状態)。21年に予定される衆議院解散・総選挙も現状では与党勝利が見込まれ、政権の安定が規制改革進展につながるとの期待で海外マネーの流入が加速する。
平均上昇率は20%
株式市場は、過剰流動性と低金利の中、政策の後押しもあって景気や企業業績の回復の見通しが強まる。過去50年間(1970~2019年)で日経平均株価が年間で上昇した年は32回あり、その平均上昇率は約20%だった。また過去50年間で日本の景気循環(内閣府経済社会総合研究所の景気基準日付)における景気の谷は9回認識されているが、景気が底をつけた翌年の日経平均の変化率を平均すると22・5%であった。これらの点から上昇相場を見込むこのシナリオでは21年の日経平均の上昇率を20%と仮定する。
本稿執筆段階で20年末の終値を2万6000円と想定し20%の上昇率を当てはめると21年の年末の株価は3万1200円が期待できる。アナリスト予想の平均であるQUICKコンセンサスによれば、来期予想の日経平均の1株当たり利益(EPS)は今期予想比50%増の1600円。これを株価収益率(PER)20倍で評価すれば日経平均は3万2000円となる。
一方で考えられるリスクは、まず景気回復のペースが速くなり米国の長期金利が上昇すること。そして、米連邦準備制度理事会(FRB)は23年まで金融緩和継続のガイダンスを示しているが、市場が懐疑的になること。また実際に景気回復が強まれば金融当局の側からも金融緩和の終焉(しゅうえん)を意識するトーンの発信がなされかねない。金融政策を巡る当局と市場のミスコミュニケーションによる市場の混乱・波乱が懸念される。
(広木隆、マネックス証券 チーフ・ストラテジスト)