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なぜ菅政権の「生産性」は低いのか?「優秀な官僚組織」がコロナでボロを露呈しまくっている根本原因

    前川喜平氏(2020年10月)
    前川喜平氏(2020年10月)

    「生産性の低い中小企業が日本経済の問題だ」――。

    大見得を切って船出した菅政権だが、コロナ対応のグダグダっぷりを見る限り、菅政権の「生産性」もお世辞にも高いとはいえない状況だ。

    「日本の官僚組織は優秀」だったはずが、一体どこで道をまちがえたのだろうか?

    その真犯人を前川喜平氏は、安倍政権および菅首相による「官邸支配」だと指摘する。その真意とは。

    忖度しない官僚はパージする「恐怖政治」

    ――たしかに、菅氏が推進する「ふるさと納税」制度の拡充案に対して、慎重論を唱えた当時の総務省局長の平嶋彰英氏は、次の人事で傍流ポストに左遷されました(※1)。

    (※1 平嶋氏は2014年夏、地方税制を所管する自治税務局長に就任すると、その年の11~12月に、制度の拡充を図る菅氏に問題点を具申。翌15年夏の人事異動で、本省外の自治大学校長へ異例の転出となった)

    前川 平嶋さんは、制度そのものをやめようと真っ向から反対したのではなく、顕在化しつつあった問題点を菅氏に説明して、再考を促したのです。

    「こういうやり方では、こういう問題が起きますよ」と情報を上げるのは、まさに官僚の役割で、のりを超えていたわけではありません。

    しかし、菅氏はそれだけでも許さなかった。ひどい話なのです。

    この一件は霞が関の官僚に相当なインパクトを与えました。

    こうして、安倍2次政権が発足して2~3年がたつと、菅氏をはじめ、官邸幹部の言うことを素直に聞かないと偉くなれないとみんな分かってきた。

    「出世第一」の人間は、何とか自分を引き上げてもらおうと官邸の方を向いて仕事をするようになったのですね。

    ここでもう一つ知ってもらいたいのは、官僚は通常でも2年程度でポストが変わる、ということです。

    つまり、政権が続けばそれだけ、各省の幹部ポストは、菅氏一派によって官邸の言いなりになる人間に変えられていくわけです。

    かくして、2次政権が発足してから8年となる今や、九割方の次官や局長が、「迎合・忖度官僚」「イエスマン官僚」になっているのです。

    「一斉休校しよう」「私もそう思います」官邸に迎合する事務次官

    ――なるほど。肝心の幹部がこれでは、おかしな方針や政策が降りてきても、なかなか押し返すことができないわけですね。

    前川 役所にはもうほとんど、官邸に抵抗する力は残っていません。

    現に、先の「一斉休校」が降りてきたときも、文科省事務方トップの藤原誠事務次官は、ものの見事に迎合していました。

    衆院予算委員会分科会で共産・宮本岳志氏の「教育勅語」に関する質問に答える文部科学省の藤原誠・初等中等教育局長=国会内で2017年2月23日午前9時55分、川田雅浩撮影
    衆院予算委員会分科会で共産・宮本岳志氏の「教育勅語」に関する質問に答える文部科学省の藤原誠・初等中等教育局長=国会内で2017年2月23日午前9時55分、川田雅浩撮影

    政府の新型コロナ対応を検証した民間臨時調査会の報告書(※2)によれば、藤原氏は官邸に呼ばれて、そこで安倍前首相から突如、一斉休校を要請する方針を聞かされた。

    (※2 『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)

    すると彼は、「私もやった方がいいと思っているんです」と即座に応じたというのです(※3)。

    子どもの学習権を守る司の要が、こんなていたらくになっている。

    その後、藤原氏が省内に案を持ち帰ると、安倍氏ベッタリの萩生田光一文科相ですら、共働き家庭の子どもは日中どうするのか、と異論を唱えて、担当局もまた、騒然としながら論点整理に入ったといいます(※4)。

    (※3・4 『新型コロナ対応・民間臨時調査会 調査・検証報告書』127頁)

    実務を担う関係課の課長は、「こんなおかしな話を、どうして止めてくれなかったのか」と苦々しく思いながら準備にかかったはずだ、と容易に察しがつきます。

    こうして、まっとうな中堅若手の官僚は、公益のために働きたいと願っているのに、官邸発の、とても公益にはならない政策に付き合わされ続けて、近年ずっと精神的につらい局面にいるのです。

    「忖度官僚」と「誰もが認める実力者」幹部になるべき人材はどちらか

    ――政治主導を確立しようと、幹部官僚の人事制度を変えたわけですよね。でも、それがマイナスに響いているということですか。

    前川 みなさんの中には、「官邸の強引人事はダメだけど、各省が自分たちで決める従来方式だって、仲間内での情実人事になったりして良くないのではないか、『公益のための人事』にならないのではないか」と思っている人がいるかもしれません。

    でも、誰を幹部ポストに充てるかは、長い間の評価の積み重ねをへて決まっていく、説得力のあるものだったのです。

    というのも、官僚の世界はほぼ同じメンバーでずっと過ごします。

    そうすると、官僚たちは日々、360度評価をされているようなもので、そのうちに、発想力や事務力といった職務の能力はもちろん、部下や仲間に慕われているかとか、いざという時に踏ん張れるかとかまで、各人の力のありようが、お互いに隠しようなく分かってしまう。

    ――みな、丸裸に。

    前川 ええ。そして、「あいつはいい」と早くから目されるようになった人は、幹部になるべく、それにふさわしいキャリアを歩んで鍛えられ、また、その都度、試されていくのですね。

    こうして、次官をはじめ幹部ポストにつくべき人間は誰か、時を重ねるうちに自ずと答えが見えてきて、それが省内の共通認識にもなってくる。

    だから、幹部人事って、いっときの情実や弾みで、ぽっと決まるようなものではないのですね。

    時に、ライバルの二番手候補が逆転して次官になることはあっても、それまであまり評価されてこなかった人間が、突如、妙な力が働いて、次官に就くなんてことはないのです。

    「菅人事」が公益を破壊する

    ――官僚人事は、公正に力が評価されて、ひいては、公益に資するものだったといえるのですね。

    前川 そうです。ところが「菅人事」では事情が異なります。前々から次官候補の大本命と共通認識となっていた人が外されて、官邸にとって都合のいい人間が取って代わる。とても次官の器ではないのに。そういう「番狂わせ」がしょっちゅう起きる。

    実は、先の藤原氏が昇格した2年前の次官人事も番狂わせだったのです。

    本命は、当時、省ナンバー2ポストの文部科学審議官であった小松親次郎氏でした。仕事ぶりや人望、バランス感覚などからいって、省内の誰からみても、いやOB・OGから見たって、彼だったのです。

    もっと言うと、私が次官を退任するときの「申し送り」も小松氏でした。

    というのは、次官人事の原案って、現次官が考えるのですね。ただ文科省は、文部省と科学技術庁との統合官庁で、だいたい文部省系と科技庁系が「たすき掛け」で次官につくので、現次官は「次の次」の次官を決めて申し送りをすることになる。

    つまり、現次官は退任する際に、先に申し送りを受けていた人間を後継指名するとともに、「あなたの次は、この人を指名してください」と自分もまた申し送りをすると。

    で、私は2017年に辞めるときに「あなたの次は小松親次郎だ」と申し送りをしたわけです。

    なのに、これまでに積み重なった評価が完全にひっくり返されて、当時官房長だった藤原氏が小松氏を飛びこえる形で昇格して、小松氏は退官となったのです。

     

    おそらく、例によって和泉氏から「藤原氏がいい」と、杉田氏や菅氏に上がったのだと思う。

    むしろ、藤原氏が和泉氏を通じて官邸に働きかけ、菅氏の鶴の一声を発してもらって事務次官ポストを手に入れた、というのが真相に近いと思います。

    藤原氏は、15年の新国立競技場の建設問題で、官邸の和泉氏と密にやり取りをしました。以来、気脈を通じている。

    藤原氏は文科官僚には珍しく、政治的に動くタイプで、その点が和泉氏とよく似ています。お互い、同じにおいを感じ取っていたのではなかと思うほどです。

    一方、小松氏は官邸とは距離を置いていました。

    ――官邸からしたら、藤原氏の方が都合がいい。何かあったときに言うことを聞かせやすい。

    前川 ええ。まさに藤原氏は、「一斉休校」という大愚策を何とかとめないといけない局面で、官邸に迎合してしまった。果たして、あの次官人事こそ、公益にかなう人事だったといえるのでしょうか。(構成・山家圭)

    ▽前川喜平(まえかわ・きへい)

    1955年生まれ。東京大学法学部卒業。79年文部省(当時)入省。文部科学省官房長、初等中等教育局長、文部科学審議官などを経て、2016年文部科学事務次官。17年退官。著書に『面従腹背』(毎日新聞出版)、『この国の「公共」はどこへゆく』(共著、花伝社)など。

    ▽山家圭(やまが・けい)

    1975年生まれ。フリー編集者。社会保障専門誌の編集記者(厚生労働省担当)を経てフリーに。

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