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思いやり予算増額のトランプとはもう交渉しない?バイデンとの関係作りを急ぐ菅外交

    温室効果ガス排出の「2050年実質ゼロ」に向け2兆円の基金創設を表明した菅首相(首相官邸で12月4日、代表撮影)
    温室効果ガス排出の「2050年実質ゼロ」に向け2兆円の基金創設を表明した菅首相(首相官邸で12月4日、代表撮影)

    在日米軍の駐留経費を日本側が一部負担する「思いやり予算」。

    5年ごとに新たな額を決め、来年3月に現行の期限が切れるが、日米両政府は年内の合意を見送った。

    大幅負担増を求めるトランプ政権との交渉を打ち切り、同盟関係の再構築を掲げるバイデン次期政権と交渉した方が円滑に進むという読みがあるのだろう。

    なにしろ、トランプ氏は今の4倍以上の80億ドル(約8320億円)を負担しろとふっかけ、応じなければ在日米軍を撤収させると脅せ、と交渉者に言う始末だ。

    交渉は外務、防衛当局の実務者が専門的な見地から積み上げ、最後は政治判断で決めてきた。

    「値切り交渉にしたくない」と交渉者たちが考えるのはもっともだ。

    無理難題を言うトランプ氏だが、かつて日米交渉にかかわった古手の外交官は「同盟国を脅す手法は、30年前と同じだ」と顔をしかめる。

    どういうことか──。

    1990年12月、当時の海部政権はブッシュ(父)政権の要請を受けて、米軍駐留経費の日本側負担を5年間かけて段階的に引き上げていく方針を決定した。

    当時は、イラクがクウェートに侵攻した湾岸危機の発生により、中東への艦艇派遣で在日米軍が集積基地となった。

    その負担を賄ってくれという要求だった。

    強硬だったのが、米議会である。

    上下両院は「在日米軍の駐留経費を全額負担し、応じなければ在日米軍を段階的に撤収する」という合同決議を採択していた。

    駐留経費負担の増額要請に対し、湾岸に派遣される米軍への支援に含める一時金とする案があった。

    これにはブッシュ氏が「別の問題だ」と話したという。

    湾岸危機発生後、米政権は日本政府に自衛隊による米軍への輸送支援を打診した。

    憲法上の制約から応じず、新法制定による自衛隊支援も国内の反対で断念した。

    当時のアマコスト駐日大使は日本の対応を「失敗だったとは言えない」としたものの、冷戦後の国際秩序構築における日本の役割に疑問を呈していた。

    冷戦後の「パックス・アメリカーナ」の時代と、米中露による「新冷戦」に入らんとする今とでは国際情勢が異なる。

    軍事的な緊張はむしろ高まっているといえる。

    「同盟重視」で負担増も

    30年前を知る外交官が懸念するのは、民主党のバイデン次期大統領は同盟国を重視しても、今の米国に同盟国を束ねるだけの求心力はない、ということだ。

    民主党内には軍事費削減を求める意見がある。

    その分、同盟国は負担を強いられる。とりわけ左派には「同盟は大事だが、慈善事業ではない」との意識が強くある。

    日本の保守派の間には、共和党に比べて民主党は日米関係を「軽視」してきたとの疑念が残る。

    クリントン政権の「日本パッシング」を覚えている人もいるだろう。

    アジア重視政策を打ち出したオバマ前政権も「実務的」だった。

    30年前の「在日米軍撤退」決議も主導したのは、上下両院で多数派を握る民主党だ。

    「バイデン氏になれば安心というのは、楽観的過ぎる。同盟重視の意味は、それだけ役割もカネも求められる」という声は、外交当局者の間からよく聞かれる。

    そうした中で、バイデン次期政権とくみしていくために、どう共通の足場を作るか。

    菅義偉政権が積極的な姿勢を見せるのが、地球温暖化対策だ。

    国会閉幕にあたって首相が記者会見を開くのは定例になっている。

    だが臨時国会閉会前日の12月4日の会見は単なる閉幕会見でも、コロナ会見でもなかった。

    「過去に例のない2兆円の基金を創設し、野心的なイノベーションに挑戦する企業を支援する」

    冒頭発言で表明したのは、所信表明演説で明らかにした、温室効果ガス排出を2050年に実質ゼロとする目標実現に向けて資金拠出するという演出だった。

    翌日の朝刊各紙には「脱炭素支援へ2兆円基金」の見出しが躍った。

    この構想は自民党との二人三脚で後押ししている。

    会見に先立ち、党2050年カーボンニュートラル実現推進本部長の二階俊博幹事長が首相に提言を申し入れた。

    米国へのアピール

    提言は、50年目標を「くにのかたち」を決める最も重要な国家戦略と位置付けた。

    「脱炭素」を原発存続と同時に、新たな公共事業の旗印にしようとする狙いがある。

    これをテコにした「グリーン外交」で米国と連動を図るのが首相の腹案という。

    会見で「どうしても実現する」と強い意欲を見せたのも、米国向けのアピールだ。

    菅政権が検討しているのは、バイデン次期政権が21年春に米国での開催を目指す「気候世界サミット」への参加に名乗りを上げ、積極的に協力することだ。

    バイデン氏は、オバマ政権で国務長官を務めた民主党の重鎮、ジョン・ケリー氏を閣僚級の気候変動問題担当大統領特使に指名している。

    外務省関係者は「『核兵器なき世界』を掲げたオバマ政権の核セキュリティーサミットのように位置付け、成果としたいのだろう」と話す。

    安倍晋三前首相はトランプ氏との個人的な関係を深めるのに腐心した。

    政策を軸に米国との連携を図ろうとするのは、菅首相のいかにも実務家らしいところだ。

    (及川正也・毎日新聞論説委員)

    (本誌初出 バイデン政権との関係作り 首相の腹案は「グリーン外交」=及川正也 20210105)

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