コロナ禍にもかかわらず、「2月解散説」がささやかれるワケ
2021年の最大の政治イベントは衆院選だろう。
衆院議員の任期は21年10月21日で満了となる。菅義偉首相はそれまでに衆院選に臨まなくてはならない。
政権発足当初こそ高い内閣支持率に支えられた首相だが支持率は急落しており、自民党内では早期に衆院解散・総選挙に臨むよう求める声が強まりつつある。
20年12月12日。衝撃的な数字が首相のもとに届けられた。毎日新聞が行った世論調査で菅内閣の支持率は40%で、前月調査の57%から17ポイントも下落した。不支持率は49%(前回36%)で一気に不支持が上回った。
政府の新型コロナウイルス感染症対策分科会は感染急増地域で「GoToトラベル」事業を一時停止するよう提言していたが、首相は12月11日、全国での一時停止について「考えていない」と、事業を継続する意向を示した。
「支持率下落に加え、1日の感染者数が3000人を超えたことから、首相はGoToトラベルの一時停止を判断したが、遅きに失した」と語るのは自民党議員。
首相は12月13日に加藤勝信官房長官、田村憲久厚生労働相、西村康稔新型コロナ対策担当相の3人を集めGoToトラベル一時停止の意向を伝えたが、時既に遅し。
その後も緊張感に欠け、ステーキ会食などを続けたことから、朝日調査では支持率が39%まで落ち込んだ。
首相自身は否定的?
コロナ対策で下手を打ち内閣支持率が下落する一方、自民党支持率は堅調さを維持している。
NHKが12月11~13日に行った調査では、自民党支持率は38・2%で、誤差の範囲内ではあるが前月から1・4ポイント増加。
毎日調査では33%で前月比4ポイント減に踏みとどまった。ここに解散論が出る理由がある。
通常国会は21年1月18日に召集される。まずは第3次補正予算案の審議が始まり、同月内には成立するとみられている。
バイデン氏が米大統領に就任するのは1月20日。菅氏は2月早々にも訪米しバイデン氏と会談を行いたい意向だ。
自民党議員は「首相はオーソドックスな手法を好むから2月解散は避けたいだろう。訪米して日米首脳会談もやりたいだろうし、解散は早くても21年度予算が成立した4月以降では」と推測する。
一方、自民党ベテラン議員は「新型コロナ対策で菅内閣は国民から見放されたが、自民党支持率にはまだ影響していない。自民党支持率が下がる前に、首相は解散・総選挙に踏み切るべきだ」と語る。
自民党内では第3次補正予算成立後の2月に速やかに解散することを求める声がジワジワと強まり始めているのだ。
派閥を持たない首相の権力基盤は必ずしも強くない。党内に解散を求める流れができれば、それに抗するのは首相といえどもなかなか難しくなることも予想される。
もちろん、新型コロナの感染状況など先が見通せないことも多く、感染状況がさらに悪化していれば「解散などしている場合ではないとの世論も強まるだろう。解散したくない首相がそうした声を理由に解散しないことも考えられる」(別の自民党議員)。
いずれにせよ、2月解散を逸すれば、次のタイミングは21年度予算成立後の4月になるだろう。
だが、4月解散は東京都議選に近づくことから同選挙を重視する連立与党・公明党からは反対の声が上がるだろう。7月の都議選とのダブル選挙も公明党は反対だ。
「9月まで持たない」
その次となれば、東京五輪・パラリンピック後だが、果たして菅政権がそれまで続いているのかという声もある。
自民党中堅議員は「下手すると菅さんは(自民党総裁任期満了の)9月まで持たず、総裁選前倒しになるかもしれない」と指摘する。
首相にとって好材料なのは、ポスト菅の不在だろう。
安倍晋三前首相は退陣後、病状が安定し、精力的に政治日程をこなしていた。「ポスト菅は安倍」とささやかれるほどだった。
しかし、「桜を見る会」前夜祭の費用を安倍事務所が補填(ほてん)していた問題が安倍氏を直撃。捜査自体は安倍氏の公設秘書の略式起訴で終結し、安倍氏自身は不起訴になったが、国会で虚偽答弁をしてきた責任は免れない。
「事件になったことで、安倍さんの再々登板はなくなった」(自民党ベテラン議員)とみられている。
先の自民党総裁選で敗れた岸田文雄前政調会長は意気軒高に次を狙っているという。しかし、そののんきさが周辺をいらだたせている。
岸田氏の戦略は、会長を務める派閥「宏池会」で古賀誠前会長の影響力をそぎ、安倍氏や麻生太郎副総理兼財務相からの支援を得ることで、両氏との面会を重ねている。
だが、「古賀切り」に派内の反発が起きており、「派内もまとめきれないのに何が総裁選だ」といった声も漏れる。
石破茂元幹事長も派内のゴタゴタを抱える。石破氏は派閥会長の辞職を表明したが、これに中堅・若手が反発。いまだに結論は出ていない。
党内に敵がいなければ、当面の敵はコロナといったところか。
コロナは菅内閣の運命を大きく狂わせた。21年も最大の敵はコロナかもしれない。
(高塚保・毎日新聞政治部長)
(本誌初出 足元で広がる“2月解散”説 自民党支持率「下がらぬうちに」=高塚保 20210119)