「最後のひと上げの後、かつてない大恐慌がやってくる」ジム・ロジャーズ氏が断言するワケ
「暴落前のバブルを見極めろ」という“冒険”投資家のジム・ロジャーズ氏に2021年の相場がどうなるか聞いた。(世界経済総予測2021)
(聞き手・構成=岩田太郎・在米ジャーナリスト)
── 米国ではバイデン氏が次期大統領に選出された。マーケットへの影響は。
■バイデン氏は大量の紙幣を刷り、多額の財政出動を行うなど、あらゆる努力をして経済がうまくいっているように見せるだろう。
その意味では、トランプ時代から大きな変化はないといえる。
当面の間は、市場と米経済にとってよいことだと思っている。
── イエレン米連邦準備制度理事会(FRB)前議長が米国経済のかじを取る財務長官に就任する。
■米経済に何が起こっているのか、イエレン氏が正確に理解しているとは思えない。
しかし、イエレン氏は、貨幣の増発や財政出動には積極的だ。市場は歓迎するだろう。
また、株式などの資産価値が増大するため、それらから受益する高齢者も喜ぶだろう。
── 市場で「ブローオフ(最後のひと上げ)が起きる」との持論は変わらないのか。
■すでに眼前で起こっている。
米主要IT企業の「FAANG(ファング)(フェイスブック、アマゾン、アップル、ネットフリックス、グーグル)」株はじめ米国株は史上最高値を付けているし、日本株も30年来の高値を記録した。
中国株も勢いがついている。
FAANG株は「絶対に下がらない」とさえいわれている。中国IT大手アリババの株も上昇する。
株式市場の一部はすでにブローオフが起きている。
── その勢いは21年も続くか。
■続くと予想している。一時的な調整局面も見られるだろう。
だが、好調を維持させたい国が救済するだろうから、ブローオフは続くと見ている。
「黒田ETF」を大量購入
── 日本株をどう見る。
■絶対に「買い」だと思う。
他の多くの国よりも日本を買いたい。
── それはなぜか。
■まず、史上最高値よりまだ4割安い。
さらに、日銀の黒田東彦総裁が、どんどん紙幣印刷の輪転機を回させて「上限なく」お金を刷りまくる。
黒田氏は債券や上場投資信託商品(ETF)もどんどん購入している。
だから、私が経営する投資会社も日本のETFを大量に買い込んでいる。
── 米国の大物投資家ウォーレン・バフェット氏も、日本の商社株を大量に仕込んだ。
■日本の商社株も、また長期にわたり割安感があり、日本経済全体の価値を体現するものだ。
ETFより、さらにもうけが出るかもしれない。
バフェット氏は賢い動きだったと思う。潤沢な資金も持っている。
私は「なまけ者」だから、常に値動きを見ていないといけない特定の業界の株ではなく、ETFを買っている。
類を見ない債券バブル
── 今の株式市場は、好調すぎて怖い、という見方もある。
■11月は特に市場が好調だったため、いずれ調整が起きるだろう。
それに対して各国政府は市場を支えようとするだろうから、また上昇する。
そこで「(暴落前の)最後のひと上げ」となるわけだ。
── 世界経済が間違った方向に向かうとすれば、何が原因か。
■コロナ禍を除外しても、前回の金融危機から10年以上が経過していることを忘れてはならない。
次の危機がいつ起こってもおかしくない。
また、世界各国で負債が積み上がっている。
負債の増大は、いずれ何らかの問題となって噴出することは、歴史が示すとおりだ。
さらに、米国や日本の株式市場は過熱しており、史上最高値圏にある。
世界中で債券市場がバブル状態だ。
このようなバブルは、これまで一度も起こったことがなかった。
人々は「大丈夫だ、悪いことは起こらない」と言っている。だが、バブルはいつかはじける。
金利か、債券のバブル崩壊か、株の急落か、各国中央銀行の貨幣増発のやり過ぎか、何が引き金となるかは分からないが。
私は作り話をしているのではなく、過去に実際に起こった史実を語っているのだ。
歴史の最も重要な教訓は、人々が歴史から学ばないことだ。
── 暴落前の最後のひと上げが終わった後には、何が来るのか。
■1930年代の大恐慌のようなひどいことが起こるだろう。
それは、長い市場の熱狂の後に何回も繰り返されてきたことだ。
負債は、これまでになかったほどに、あらゆるところで積み上がっている。
次の市場の崩壊は、私の人生で最悪級のものになろう。
各国政府がどれだけ国家債務を膨らませてお金を増発しようが、いつかは崩壊の時が来る。
世界覇権の交代も
── どれほどひどいものになるのか。
■企業の債務不履行が中国でも米国でも多発し、州などの自治体も破綻することになる。
破産も急増する。
さらには、過去に英国から米国に世界覇権が移ったようなことが起こり得る。
── ドルはどうなる。
■国際基軸通貨としてのドルの地位はピーク時から低下している。
事実、中国などが代替の基軸通貨の地位を狙っている。
すぐにドルがなくなるわけではないが、歴史を見ると、基軸通貨がその地位を100年、150年にわたり維持できた例はない。
最近ドルの調整が起こったことで他の投資家は弱気になっているが、私はすぐには売却しない。
── 10年後の世界経済は。
■今、17歳の人は不幸だ。
── あなたの娘さんが、その年ごろでは。
■その通りだ。10年後には深刻な問題が起きていると思う。
FAANG株やテスラ株でさえ暴落しているだろう。
誰にとっても困難な時代になるだろう。現在88歳なら逃げ切れるだろうが、若い人は、そうはいかない。
── あなたはかつてエール大学の学生として歴史を専攻した。そこで培った歴史観は、投資にどう生かせるか。
■歴史は極めて重要だ。
現在の状況を歴史的に観察すると、バブルが発生していることが分かる。
これは、資産となる対象が何であれ、過去に何百回と起こっている。
人々が口をそろえて「今回は(バブルとは)違う」と言う時ほど、大いに警戒すべきだ。
そのような言葉が発せられる時、歴史が教えてくれるのは、非常に心配なことが裏で起こっているということだ。
だから歴史は、(現時点では)債券への投資は避け、一部の銘柄や市場で発生しているバブルを見極めろと言っているのだ。
(本誌初出 インタビュー1 ジム・ロジャーズ「21年の株は最後のひと上げ まだ割安の日本は“買い”だ」 20210105)
■人物略歴
ジム・ロジャーズ Jim Rogers
ロジャーズホールディングス会長。1942年生まれ、米アラバマ州出身。シンガポール在住。ジョージ・ソロス、ウォーレン・バフェットと並び、「世界3大投資家』と言われる。エール大学卒業。73年、ジョージ・ソロス氏ととともにクォンタムファンドを設立。バイクで世界を旅行する冒険投資家としても有名。中国の株式市場を一貫して高く評価。