「5年前なら中国も選択肢だったが……」エミン・ユルマズ氏が語る「日本株は今こそ買い」の理由
2021年は日本株の魅力がより一層増す年になるだろう。
日経平均株価は、東京オリンピック・パラリンピックが開催されれば、3万円まで上昇、未開催なら2万8000円を予想する。
足元で欧米に加えて、日本でも新型コロナウイルスの感染者が急増し、この冬が正念場だ。
ワクチンの早期開発・普及は難しく、残念ながらオリンピック開催は難しいだろう。現状では2万8000円を主張する。
今私が最も心配しているのは米株だ。
上下両院のねじれやバイデン次期大統領によるコロナ対策などプラス材料をすべて織り込み済み。
楽観論が支配しすぎている。
20年末から21年3月にかけて大きな調整を余儀なくされ、ダウ工業株30種平均は2万3000ドルまで急落するとみている。
日経平均も米株の調整にある程度、付き合わされるが、2万2000円を割り込むことはないだろう。
3月以降は21年末に向けて大きく上昇すると予想する。
理由は、日本はコロナ感染者が欧米に比べて圧倒的に少ないことだ。
日本の3安(安心、安定、安全)はコロナ禍で世界が改めて認識した。
さらに企業業績もしっかりしているにもかかわらず、割安に放置されている株が少なくない。
それを真っ先に見つけたのが、著名投資家のバフェットだ。
彼は8月末に大手商社5社の株を買った。
伊藤忠商事を除き4社すべてはPBR(株価純資産倍率)1倍割れながら、配当からみたリターンは5%程度を狙える銘柄だ。
商社だけでなく、時価総額が数兆円ある割安株が残っているのは日本だけだ。
米国以外に投資しないバフェットは、米株が割高過ぎて日本株にいくしかなかったのだろう。
しかし、決して消去法的な判断だけではなく、バフェットは日本企業を改めて見直したと思う。
コロナ後のインフレ
米中対立はバイデン大統領になっても変わらない。
特にハイテク分野の覇権争いはさらに激化するとみられる中、そのカギを握る半導体製造装置や部材は日本企業にしか作れないものが多い。
米中双方ともに、日本との関係を悪化させられないのだ。
菅政権が打ち出したデジタル庁を創設して、官民を挙げてデジタル化を進める政策は、日本経済の構造改革をもたらす。
また、脱炭素を促進するインフラ投資など環境対策はESG(環境・社会・企業統治)投資の観点から、世界が注目するだろう。
大きなリスクとしては、強権化する中国が台湾を実効支配に動くことだ。
香港の民主化運動を封じ込めた後のターゲットは間違いなく台湾。
中台衝突への対応は非常に難しく、この地政学リスクの高まりはマーケットを直撃する。
中長期の対策として重要なのは、コロナ後のインフレだ。
コロナ対策に世界各国・地域が12兆ドル(約1250兆円)を超える財政出動を行った結果、国際金融協会(IIF)によると、20年末に世界の債務残高は過去最大の277兆ドル(約2京8800兆円)に達する。
国内総生産比で365%に急拡大する見通しだ。
各国・地域の中央銀行がお金を刷りまくり、それを政府がバラまく状況で、コロナ前の需要が戻り始めれば、急激なインフレは不可避だろう。
だからこそ、バフェットは金鉱山会社の株を買って、将来のインフレに備えているのだ。
今は市場にあふれるマネーの行き場が日本株ぐらいしかない。5年前なら中国も選択肢だったが、アリババ集団傘下の金融会社アント・グループの新規株式公開が直前に金融当局により延期される事態に、世界の投資家は大きく失望している。
(エミン・ユルマズ 複眼経済塾塾頭、エコノミスト)
(本誌初出 日本株 五輪開催なら日経平均3万円=エミン・ユルマズ 20201222)
■人物略歴
エミン・ユルマズ
トルコ・イスタンブール出身。1997年に日本に留学。98年に東京大学理科1類に合格。同大学院で生命工学修士を取得。2006年に野村証券に入社、16年から現職。