菅政権のいう「中小企業は生産性が低い」が実は大まちがいだった理由(木内登英)
2021年、日本経済の再生に向け菅政権に託された大きな課題は、コロナショックを逆手にとった生産性の向上である。
鍵となるのは、菅義偉首相自らも掲げている「中小企業の構造改革」だろう。
コロナショックで最も打撃を受けたのは、中小企業の比率が高い飲食、宿泊、小売り、卸売業などのサービス業だ。
これらは、国際比較で見ても生産性が極めて低い業種である。
仮にこの4業種の労働生産性を、米国の水準とのギャップの4分の1縮小させるだけで、日本経済全体の労働生産性は8・3%も押し上げられる計算となる。
問題は、どのような手段で中小企業の生産性を高めるかだ。
一部には、最低賃金の大幅引き上げを通じて、低賃金で辛うじて成り立っている低生産性企業を淘汰(とうた)すべき、との主張も聞かれる。
しかし、低賃金の労働に支えられた企業を一律に、競争力を失った淘汰されるべき存在、いわばゾンビ企業と考えるのは、あまりに短絡的だろう。
そうした企業や業種の中には、我々の生活に欠かせないサービスを提供するものも多く存在する。
最低賃金の引き上げによってそれらが失われれば、大きな社会的損失となる。
この先、感染リスクが低下してくるなか、コロナショックで大きな打撃を受けた業種は、顧客から支持される企業とそうでない企業との間で、優劣がより明確になってくる。
企業の競争力は、こうした顧客の選択に委ねられるべきであり、政府が最低賃金の引き上げを通じて線を引くのは正しくない。
むしろ政府にとっての重要な施策は、競争力を失った企業に対して業種転換を促したり、従業員の転職を支援することにある。
円滑な事業承継
さらに注目すべき事実は、廃業する中小企業の生産性は、全体の平均よりも高いという点である。
中小企業における全要素生産性の上昇率の要因分解をすると、「退出(廃業)が増えると、全体の生産性上昇率は低下する」という傾向が観測される(表)。
背景には、生産性が比較的高い優良企業であっても、経営者が高齢化し、後継者不足で廃業を余儀なくされる企業が少なくないことがある。
これからは最低賃金引き上げで廃業を促すのではなく、円滑な事業承継を支援することで、後継者不足による廃業を減らす施策も重要になるだろう。
M&A(企業の合併・買収)や経営者探しという事業承継のマッチングは、すでに地域金融機関が積極的に取り組んでいる分野だ。
ただし、より広域で情報共有を進めることで、マッチングを強化できる余地はまだ大きい。
政府が関与する形でより広域な連携を実現し、中小企業の事業承継を加速させていくことも、改革の重要な選択肢の一つとなる。
(木内登英、野村総合研究所エグゼクティブ・エコノミスト)
(本誌初出 企業再生 廃業する中小の生産性は高い=木内登英 20201222)