新築にこだわる日本人が知らない木造住宅の「ほんとうの寿命」
日本の住まいの常識は、古くなった中古住宅を修繕しながら長く住むより、ある一定の時期が経過したら取り壊し、新しいものを造るケースのほうが一般的だ。
「木造住宅の寿命は30年」という説もある通り、大体30年以内に建て替える傾向が強くなっているとされる。
まさに、「スクラップ&ビルド」の考え方と言えよう。
伝統的に、日本では「土地」のほうが重要であり、「建物」は消費財であるかのように位置付けられてきた。
その証拠に、建物の資産としての価値は、築年数がたつにつれてどんどん低下し、約10年で半値、25年程度でゼロに近くなるのが常識とされる。
日本の戸建ての大半は木造住宅だが、そもそも、本当に木造住宅の寿命は30年程度なのかといえば、答えはノーだ。
戦後間もない勃興期の日本家屋は、まだ耐震性や耐久性に問題があるものが珍しくなかった。
しかし、建築技術の向上などにより、耐震性や耐久性の問題はかなりの程度解決されており、昨今の木造住宅は30年よりもっとずっと長持ちする。
早稲田大学の小松幸夫教授らが行った建物寿命の実態調査(2013年)によると、人間の平均寿命を推計するのと同様の手法を建物に応用して調べたところ、木造住宅の平均寿命は64年だという。
鉄筋コンクリート造のマンションの寿命については諸説あり、68~150年と振れ幅がある。
一口に鉄筋コンクリート造といっても配管の種類などによって差が出るが、そんなに長持ちするのかと驚く人もいるのではないだろうか。
建立から1400年以上とされる法隆寺などの古い木造の建造物が現存することからしても、木材は決して脆弱(ぜいじゃく)ではないことが分かる。
法隆寺以外でも、50年以上経過してなお現存している木造住宅はたくさんあるわけで、寿命がわずか30年ではないことは明らかだ。
これまで、日本で「中古住宅を買う」という選択肢があまり根付かなかった理由は、「中古住宅だと古くさい」などの感覚があることに加え、「中古住宅は耐震性や耐久性がなさそうで怖い」というイメージが定着していたことも関係しているだろう。
しかし、実際には中古物件でも劣化対策・維持管理が適切に行われていれば、100年でも住み続けることができる。
ただ、劣化対策や適切な維持管理がされていない中古物件はあちこちに傷みがみられ、住みづらい状態。
戸建てに限らず、マンションでもメンテナンスがずさんであるために建物としての寿命が明らかに縮んでいるものも多い。
大ばくちの不動産市場
同時期、同エリアに建造築された同規模、同グレードの二つのマンションがあったとする。
片方はメンテナンスが行き届いており、まだ何十年でも快適に住み続けられる状態。
もう片方は、管理組合が機能しておらず、修繕積立金がたまっていないため、メンテナンスしたくてもできない状態だったとする。
当然、前者のほうが不動産の価値としてはずっと高くてしかるべきだ。
しかし現実には、両者はほぼ同じ価格で販売されていることも多い。
うっかり管理の悪いほうのマンションを買ってしまったら一大事だ。
不動産に詳しくない人だと、見極められない可能性がある。
日本の不動産市場は、まるでロシアンルーレットのようだ。
(本誌初出 本当はもっと長い木造の「寿命」/74 20201215)
■人物略歴
ながしま・おさむ
1967年生まれ。広告代理店、不動産会社を経て、99年個人向け不動産コンサルティング会社「さくら事務所」設立