経済・企業

D2Cはもう古い?あの「ヒカル」をはじめYoutuberと協業する「P2C」とは何か

    高成長する「FABRIC TOKYO」の日本橋店(東京・日本橋)
    高成長する「FABRIC TOKYO」の日本橋店(東京・日本橋)

    アパレル大手のレナウンが今年5月、東京地裁に民事再生法の適用を申請し、事実上倒産するなど、苦境ばかりが伝えられる日本のアパレル業界。

    しかし、EC(電子商取引)サイトやインスタグラムなどSNS(交流サイト)を活用する、新たなビジネスモデルで急成長している企業も少なくない。

    アパレル業界では今後、こうしたビジネスモデルへの転換が進んでいきそうだ。

    矢野経済研究所によると、日本のアパレル市場は1990年代、年間約15兆円だったのが、2019年には9兆円へと縮小の一途をたどっている。

    背景には、若年層の人口減少に加え、スマートフォンなどモバイル機器の普及による外出機会の減少や、実店舗からデジタルコンテンツへの消費志向の変化などが挙げられよう。

    簡単にいえば、洋服よりスマホにお金をかけるようになった、ということだ。

    アパレル市場が従来の一般品中心から、高級品市場とマス市場(低価格品)の二極化が急速に進みつつあることも、市場全体の縮小に影響している。

    ルイ・ヴィトンなどのブランドに代表される高級品市場は、富裕層の消費意欲が旺盛で、世界全体でも日本でも拡大が続いている。

    一方、マス市場は、低コスト・高品質を武器にSPA事業(製造小売り、製造から小売りまで自社で一貫体制)を展開する国内大手10社への寡占化が進み、「ユニクロ」のファーストリテイリングが代表格である。

    「D2C」が登場

    こうしたアパレル産業の二極化の先に現れたのが、「D2C(Direct to Consumer)」といわれる新たなビジネスモデルだ。

    「D2C」とは、メーカーやブランドが自社で企画・生産した商品を、流通業者を介さず、インターネット上の自社ECサイトで直接消費者に販売するビジネスモデルである。

    ECやインスタグラムなどSNSを通じて顧客と直接コミュニケーションを確保し、中間コストを排除して低コスト・高品質な商品を提供する。

    また、単に商品を販売するだけでなく、ファン(顧客)とのコミュニティーを形成して、ライフスタイル(世界観、価値観)を創造する取り組みに力を入れているのが特徴だ。

    日本のアパレルD2Cの代表格とされるのが、オーダースーツを手掛ける「FABRIC TOKYO」(東京都)だ。

    12年設立の同社は、「Fit your life」(サイズだけでなく生き方や価値観にフィットする)をコンセプトに、顧客がスマートフォンやパソコンを使ってオンラインで採寸でき、自分の体型に合ったスーツを購入できる事業を展開している。

    若年男性を中心に、オーダースーツが手ごろな価格で購入できるとして、売り上げを大きく伸ばしている。

    株式上場も準備中だ。

    今年7月には丸井などと協力して、D2Cブランドクリエーターのためのコミュニティー活動を立ち上げ、クリエーター同士の交流や協賛企業とのマッチングの機会を提供している。

    「COHINA貧乏」

    身長150センチ前後の女性向けブランド「COHINA(コヒナ)」を展開するnewn(東京都)は、通常のXSサイズをさらに細分化した商品をECで販売。

    17年の創業から1年半で、月商5000万円の規模に成長した。

    同社は創業時から毎日配信しているインスタグラムを介し、顧客のニーズを細かく拾い上げている。

    そのため、顧客の購入リピート率が高く、買い過ぎてお金がなくなる「COHINA貧乏」という言葉がファンの間で生まれたほどだ。

    若年女性向けの低価格韓流ブランドのECサイト「17㎏(イチナナキログラム)」を運営するイチナナキログラム(東京都)は、17年の創業から2年で月商1億円を突破した。

    同社もインスタグラムを活用しており、フォロワー数は100万人を超える。

    現在、「U_DRESSER(ユードレッサー)」など展開する六つのブランド全てが黒字だ。

    SNSの拡大で消費者はブランドや商品の比較が容易になったため、アパレル企業側はテレビや雑誌媒体での露出や好立地への出店といった、従来のマーケティング手法による顧客獲得が難しくなっている。

    一方、D2CはSNSなどを活用して直接、消費者とコミュニケーションを取るため、消費者のニーズに迅速に対応できる。

    また、SNSを使って共通の世界観・価値観を顧客と作り上げ、顧客をさらに増やすという好循環も構築している。

    派生形の「P2C」

    顧客の獲得にインスタグラムや動画配信サイト「ユーチューブ」などを活用しているが、著名なインスタグラマーやユーチューバーには数万人〜百万人規模のファンが付く。

    最近は、こうしたインフルエンサー(SNS上で影響力を持つ人)自らがアパレル商品などを企画し、ユーチューブなどを活用して直販する事例も増えている。

    固定ファン層がいるだけに販売効果は非常に高い。

    アパレル業界ではD2Cの派生形として、こうしたインフルエンサーと協業するビジネスモデル「P2C(Person to Consumer)」が、昨年ごろから登場している。

    例えば、靴・ファッションのECサイトを運営するロコンド(東京都)は9月25日、ユーチューバーのヒカル氏が自身で展開するブランド「ReZARD(リザード)」とのコラボ商品を発売。

    ヒカル氏がユーチューブで宣伝することで、発売開始4時間半で1億円近くを売り上げた。

    会社設立5年で年商30億円を記録した「B STONE」(東京都)は、独自ブランドとヴィンテージのECサイト「Ameri VINTAGE(アメリ ヴィンテージ)」を運営する。

    同社の社長は、ファッション分野のインフルエンサーとして女性の間で有名な黒石奈央子氏。黒石氏は自らデザイナーでもあり、実店舗での販売も行っている。

     同社はSNS上で写真のクオリティーにこだわった独自のブランド世界観を構築して、フォロワーを増やすと同時に、黒石氏自身が店頭に立って顧客とコミュニケーションを取ることで、ファン(顧客)を増やして売り上げ増加につなげている。これも「P2C」の手法の一つだ。変化の激しいアパレル業界では、D2CやP2Cビジネスへの転換が、今後もさらに加速していく可能性がある。

    (粟田翔太、日本美粧協会理事・中国ビジネスコンサルタント)

    (本誌初出 苦境のアパレルに新潮流 SNS駆使して消費者に直販=粟田翔太 20201215)

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