「コロナで2020年4月の潜在失業率は13・4%だった」の衝撃 日本の雇用は本当に持ち直したのか
経済データが出そろうにつれて、この最悪期に何が起きていたのかが明らかになってきた。
本稿では、この時、雇用面で何が起きていたのかを示す。
休業者と非労働力人口急増
コロナ危機下で、日本の雇用情勢に大きな変化が起きたのは、20年の3月から4月にかけてである(表)。
まずこの間に就業者は107万人減少した。コロナ下で、輸出や消費の落ち込みを主因に経済活動が大きく縮小したからだ。
しかし、就業者の減少率は1・6%であり、4月には鉱工業生産指数(製造業)が9・8%減、第3次産業活動指数(非製造業)も8・0%減となったのに比べると、就業者の落ち込み度合いは小さかった。
これは、就業者ではあるが仕事をしていない「休業者」が452万人も増えたからだ。
これには政府の雇用調整助成金も貢献していただろう。
こうして企業が景気の下降期にも従業員を抱え込むことは「雇用保蔵」と呼ばれており、これまでもしばしば見られた、日本型の長期雇用慣行ならではの現象である。
ややセンセーショナルに「企業内失業」と呼ばれることもある。
もう一つ特徴的だったのは、就業者が107万人減少したにもかかわらず、失業者は6万人しか増えなかったことだ。
これは、就業者にも失業者にも入らない「非労働力人口」が94万人も増えたからだ。
非正規として働いていた女性や高齢者が、仕事がなくなったため、求職活動は行わないで家庭内に回帰したのだろう(求職活動を行うと失業者になる)。
いわば「家庭内失業」だ。
潜在失業率は13・4%
やや乱暴ではあるが、仮にこうした休業者や非正規労働力が失業者になっていたとした場合の失業率を「潜在的失業率」として試算すると、4月のそれは13・4%に達する(表の4月)。
なお、こうしたやや異常な雇用の姿は次第に元に戻りつつある(表の4月から8月の変化を参照)。
同じように8月の潜在的失業率を計算すると、6・1%となる。
こうして当面のところは、コロナ下の雇用崩壊を何とか防ぐことができた。
しかし、短期と長期の矛盾に留意すべきことを指摘しておきたい。
もともと長期的な雇用慣行は、労働力の流動性を阻害することによって、また、非正規を中心とした雇用増は、教育訓練の機会を得にくい労働者の比率を高めることによって、経済全体の生産性の上昇を抑制すると考えられてきた。
これからも雇用に大きな影響を及ぼすような経済状況となることは当然あり得るが、今後もこうしたメカニズムに頼って雇用を守ろうとすることは、短期的には雇用を救うが、長期的には成長力にマイナスとなる。
この矛盾を解消するためには、成長力の底上げにつながるような労働改革を進めるとともに、流動的な雇用の下でも短期的なショックに耐えられるようなセーフティーネットの構築を図ることだ。
具体的には再就職支援のための教育訓練の充実や生活困窮者に的を絞った救済の仕組みの整備などが必要である。
(小峰隆夫・大正大学地域構想研究所教授)
(本誌初出 雇用 増える「企業・家庭内失業」=小峰隆夫 20201222)