ヒステリックに叩いている人があえて無視する「GoToキャンペーン」の優れた成果 「イート事業」は増額の余地も
2020年7月22日から始まったGoToトラベルを振り返ると、当初は東京発着を対象外にするなどの混乱もあった。
しかし、10月1日からは東京発着も追加され、開始が遅れていた地域共通クーポンも全国で使用できるようになった。
11月に入り、新型コロナウイルスの感染が再び拡大し、一部地域が一時停止となったものの、当初の予定通りに利用できるようになり、景気ウオッチャー調査のGoTo関連業種の現状判断DIからは景況感の改善に一定の効果を確認できる(11月に急落したが)(図)。
意外なお得感
「GoToトラベルのお得感を実感した」との声もよく聞かれる。
実際、宿泊先の手配をネットの予約サイトで行うと、自動的にGoToトラベルが適用され、宿泊費が35%オフとなる。
また、宿泊先では地元限定のクーポン券が支給され、特にこのクーポン券は、宿泊地近辺や近隣の都道府県でしか利用できず、利用期限も宿泊日前後と限られている。
さらに、クーポン券はお釣りが出ないため、おのずと1000円以上の消費が宿泊先で誘発されやすい仕組みになっている。
こうなれば、本来クーポンがなければ購入に至らなかったお土産を購入することになるだろう。
またこのクーポンは、お土産などの財消費だけではなく、サービス消費にも利用できるところにお得感がある。
例えば、旅先で疲労がたまった時には、宿泊先近くのマッサージ店のサービスを受けられる。
ここでGoToトラベルのフレームワークの概要を簡単に説明しよう。
1泊最大2万円までの旅行代金の半額が補助される制度である。
具体的には、宿泊代金の35%が補助され、その他の15%分として地域共通クーポン券が渡され、旅行先やその隣接する都道府県で旅行期間中に限って使用することができる。
そして、宿泊代金として割り引かれる35%分は旅行会社を通じて予約する場合、旅行コースを予約する際に値段が割り引かれる。
また、自ら旅館やホテルなどを直接予約する場合には、宿泊する施設が対象となっているかを確認の上予約し、支払いを行う際に割り引かれた料金が請求される。
20年10月から全国での利用が始まっている地域共通クーポンに関しては、旅行会社や宿泊する旅館を通じて、紙またはオンラインのクーポンを入手できる。
GoToトラベルはGoToキャンペーン中の一つ。
トラベル以外に「イート」「イベント」「商店街」がある。
特に20年10月から始まったイートに関しては、オンライン飲食予約サイト経由で期間中に飲食店を予約・来店した消費者に対し、飲食店で使えるポイントなどを1人当たり最大1000円分付与することに加え、登録飲食店で使える2割相当分の割引が可能となるプレミアム付き食事券を発行するといった仕組みである。
GDP0・4%押し上げ
政府はこの事業に1兆6794億円もの予算を計上しており、実質的に旅行商品価格を最大5割、外食とイベント価格を2割程度引き下げる効果がある。
価格が下がれば、財・サービスの購入量は増加するため、この増加分のメリットを「消費者余剰」の増加として計算できる。
日本生産性本部のレジャー白書に基づけば、3分野における19年の市場規模は、国内観光・行楽が7・7兆円、飲食が19・8兆円、趣味・創作・鑑賞レジャーが0・9兆円となる。補助率がそれぞれ最大5割、2割、2割であることから、コロナショック前後の家計調査データや世帯数などに基づき、コロナ後のそれぞれの市場規模を直近19年データの半分になったと仮定して試算すると、旅行・外食・イベント3分野合計の市場規模の拡大は半年で約2・1兆円増となり、20年度の名目GDPを0・4%程度押し上げる額となる。
なお、1次波及効果も加味した生産誘発額に換算すれば、半年で4・0兆円の効果と試算される。
このため、仮に来年の東京五輪まで半年程度延長となれば、3分野合計の市場規模の拡大は年間で約4・2兆円、生産誘発額は同約8・0兆円の効果が期待される。
ただ、制度全体に対しては課題もある。
GoToトラベルについては上限は決まっているものの、宿泊代の35%を負担するという割引率になると、通常の価格帯よりも高価格な宿泊施設に恩恵が偏りがちになる。
このため、割引率よりもGoToイートのポイント還元のように割引額にすることで、恩恵が平準化される可能性があると言えよう。
出張回復は困難
制度設計にも課題がある。
というのも、感染拡大時に一時停止するといったような取り決めがなかったため、11月の感染拡大時には対応が後手に回ってしまった。
このため、今後は迅速なGoToのアクセルとブレーキの役割を果たすべく、一刻も早く一定の数値基準などの設定が必要となろう。
また、ビジネスマンにとっては、もし感染したら職場に迷惑をかけると考え、ちゅうちょする側面も現実にはある。
旅行需要が、元に戻るまでにかなり時間がかかるだろう。
このため、つなぎとして近場での消費を後押しするGoToイートが重要になろう。
ところが、外食には国内観光の2倍以上の市場規模があるにもかかわらず、予算規模がトラベルの1・35兆円に対して1484億円と圧倒的に少なく、すでに11月中旬でポイント付与は終了してしまっている。
このため、感染が落ち着いた段階での予算の増額も検討に値する。
さらに、支援策は期間限定であるが、その期限を21年のゴールデンウイーク(GW)や東京五輪までに延長すべきといった意見がある。
だが、旅行が季節的に盛り上がるGWや東京五輪(夏季休暇)を期限とすると、その後の反動減が大きくなってしまう。
このため、期限を延長するのなら、例えば東京五輪前までのように季節的に旅行需要が盛り上がる前まで、もしくはワクチンが普及するまでといったように、できる限り需要が平準化される時期にした方が効果的だろう。
なお、旅行や観光は人間の根源的な欲求に基づくため、コロナ感染に対する恐怖心が払拭(ふっしょく)されれば、元に戻る期待もある。
その一方で、出張についてはオンラインの浸透によりコロナ前の状況に戻ることはかなり困難といえよう。
このため、政府はワーケーション(働きながらとる休暇)といった新たな需要の創出を後押しするなど、これまでとは異なる施策が必要になってくるだろう。
(永浜利広・第一生命経済研究所首席エコノミスト)
(本誌初出 Go To 五輪までで経済効果は4.2兆円 外食の予算が少な過ぎる=永浜利広 20201222)