「EVで日本車は負け組」が実は大嘘であるというこれだけの理由
「日系自動車メーカーはEV(電気自動車)で出遅れている」
よく耳にする言葉だ。
自動車市場における2020年現在のEVシェアは3・5%(前年比1・5%増)まで高まり、主要EVメーカーであるテスラの時価総額はトヨタ自動車や独フォルクスワーゲン(VW)、米ゼネラル・モーターズ(GM)の時価総額の合計を上回る水準に達した。
欧州を中心とした燃費規制の厳格化やICE(内燃機関)廃止時期の前倒し、中国の新エネルギー車産業発展計画の進展、米国のバイデン新政権の誕生による環境政策の見直しの可能性、日本のカーボンニュートラル(炭素中立)宣言など、EV普及を促す動きは加速している。
欧米系メーカーがモデルポートフォリオのEV化を一気呵成(かせい)に進め、積極的なプロモーションを行う中で、HV(ハイブリッド車)に軸足を置いてきた日系メーカーがEVで出遅れているという印象をもたれても不思議ではない。
電動車の収益化が焦点に
一方、EVにせよ、HVにせよ、自動車市場が電動車の本格普及期に入り、今後の焦点は電動車の収益化に移ろう。
電動車の収益化が自動車メーカーの優勝劣敗を分けるファクターとなり得る中、一部の日系メーカーは相対的に劣位どころか、優位にあると考える。
電動車は主にHV、PHV(プラグインハイブリッド車)、EVなどに大別されるが、それぞれの1台当たりコストの差は大きい。
Cセグメント(排気量では1・5~2・0リットル)相当の平均的なモデルを比較した場合、ICEに対しHVは10%弱、PHVは10%強、EVは30~40%程度のコスト増が想定される。
コスト差の最大の要因はバッテリーで、ICEと遜色のない航続距離を実現するために相応のバッテリー容量を求められるEVは大幅なコスト増が避けられず、1台当たり収益もHVなどに大きく見劣りする。
環境規制の達成を求められる自動車メーカーの電動車ミックス(HV、EVなどの構成比率)は個社の戦略によって異なり、一般的に欧米系メーカーはEVへの依存度が高く、日系メーカーはHVへの依存度が高いという構図が当面続きそうだ。
EV投入のための先行投資と1台当たりコストの増加は自動車メーカー共通の課題だが、20年以上の量産実績をもつHVに依存できるトヨタなどの日系メーカーは中期的に1台当たり収益の毀損(きそん)を最小化できるばかりか、EVにかかわる課題解決のための時間的猶予も得られよう。
さりとて、長期的には燃費規制のさらなる厳格化、一部の国でのHVも含めたICEの販売禁止などが見込まれ、いずれ日系メーカーもEVにかかわるコスト課題への取り組みを求められることに変わりはない。
EVの最大の課題であるバッテリーコストを比較した場合、日系メーカーの調達コストは中国系大手などと比べても10~20%程度高いとされる。
EVの収益化だけでなく、市場における競争力を確保する上でも次世代バッテリーの開発による一層のコスト改善が期待されよう。
また、数を束ねることによるリソースやコストの効率化はバッテリーだけでなく、プラットフォームや電動パワートレーンを含めたEV全体のコスト改善に欠かせない。
結果、EVにかかわる自動車メーカー、系列内外のサプライチェーンを取り込んだ提携による協業が重要性を増しつつある。
この点においても、日系メーカーの中ではトヨタが電動車市場のリーダーとしての地歩を固めつつあるように感じる。
(秋田昌洋、クレディ・スイス証券アナリスト)
(本誌初出 自動車 日系メーカーは電動車市場でも優位=秋田昌洋 20201222