「コロナでSNSを始めたもののいまいち反響がない」という企業が絶対知っておくべき「AISAS」と「主要4サービスの特徴」
さまざまな企業活動が新型コロナウイルスの影響で変化を強いられるなか、特に大きな課題となっているのが広報・PRの在り方だ。
リモートでの対応が当たり前となり、消費者と対話をする形で、商品やサービスの魅力を伝える場が少なくなっている。
そこで、新たな広報活動のツールの一つとして注目されているのが、ツイッターやフェイスブックなどの「SNS(交流サイト)」だ。
SNSは消費者との距離感も近く、使い方によっては、多額の広告費用をかけなくても大きな効果をもたらす。
認知に有用
その一例が、月刊『致知』を出版する致知出版社だ。
致知出版社は、子育てをする母親向けの雑誌、致知別冊『母』の宣伝にフェイスブックのライブ動画配信を活用し、1カ月間、毎日、動画による子育ての無料セミナーを開催。
そのなかで雑誌の宣伝を行うことで、販促活動に生かすことができた。
同社はライブ配信自体まったく経験がなく、ゼロからの試みではあったが、今では月刊『致知』の宣伝も動画配信を活用し、誌面の内容の宣伝や取材秘話を赤裸々に語ることで、1万人が視聴する人気コンテンツとなった。
デジタル化の必要に迫られる事情もあり、今年に入ってSNSを活用する企業が少しずつ増えている。
全体としてはまだ多くはないが、来年以降はSNSの魅力に気づく企業も増え、さらに参入が増えることが予想される。
激戦区となる前に、一刻も早くSNSを始めることを検討すべきだろう。
広告・マーケティング業界では、消費者が特定の商品を購入する行動プロセスとして、「AISAS(アイサス)」という理論がよく使われる(図)。
すなわち、「注目(Attention)」「興味(Interest)」「検索(Search)」「購入(Action)」「共有(Share)」の頭文字を並べたものである。SNSは特に製品やサービスを認知してもらう「注目」と、口コミや評価などの情報の「共有」に非常に有用だ。
数あるSNSの中でも現在主流のサービスは、フェイスブック、インスタグラム、ツイッター、ユーチューブの四つだが、特徴やユーザー層、AISASのカバー範囲にも細かい違いがあるため、宣伝したいサービス、商品によって、使いどころを考えなければならない(表1、2)。
そのため、各サービスの違いを前もって把握しておくことが必要になる。
フェイスブックはユーザーの年齢層が高く、ユーザー数も国内で見ると、他のサービスと比較して少ない。
一方で利用には実名登録が必須であることからユーザーとの間で信頼性が生まれ、ファンも作りやすい。
そのためBtoB(企業間取引)の商品のほか、セミナー、コンサルなどの高額なサービスの宣伝、経営者自らの情報発信などに向いている。
インスタグラムは「ハッシュタグ(#)」という機能を利用すると、情報を届けたいユーザーに狙いを定めて発信できる。
ハッシュタグは検索キーワードの一種で、たとえば「#経済」というハッシュタグを検索すると、同じ「#経済」で登録している不特定多数の投稿を横断的に検索できるだけでなく、自分と近い興味を持つ人と出会うこともできる。
半面、女性向けでも高額の商品は売りづらいというデメリットも持ち合わせる。
ツイッターは匿名性が高く、トラブルも起こりやすい問題はあるが、四つのなかでは最もユーザー数が多いサービスだ。
いま話題のキーワードやリツイート(他人の情報の共有)など、不特定多数の人に情報の拡散がしやすいことがメリットとして挙げられる。
そのため、いま話題のキーワード(トレンド)を絡めた宣伝をしたい場合は最も良い選択肢となる。
また、以前は若年層向けのサービスであったが、現在はユーザーの平均年齢が35歳と高まっており、やや高額の商品でも宣伝しやすい。
ユーチューブは、情報を流すにも「動画を作る」という作業が必要になるため、前準備の部分で最もハードルが高いサービスだ。
加えて、コロナ禍の影響で配信を始める人も増えているため、競争が激しく再生回数が以前より稼ぎにくくなっている。
そのため、今はフェイスブックやツイッターなど他のSNSと併用しながら、「検索」の部分で利用してもらい、次の「購入」につなげるための後押しとするのがいいだろう。
製品やサービスに興味を持った人が、詳しい情報を調べる際に、ユーチューブの動画があれば、魅力やイメージが伝わりやすいし、動画の説明文から、他の動画やホームページに誘導することもできる。
また、企業紹介や採用活動のような、時間をおいても腐らない情報を発信する際にもユーチューブは役立つ。
迷ったらフェイスブック
このように注目を集めやすいSNSだが、一方でそれだけでは売り上げにつながりにくいという欠点もある。
そのためAISASの「I」、つまり興味につながるよう、別のツールの併用が必要になる。
具体的には、情報が確実に読まれて興味を引くことに向いている、「メールマガジン(メルマガ)」や「ライン公式アカウント」のようなサービスを利用することだ。
筆者の経験では、SNS経由の売り上げと、メルマガやライン公式アカウント経由の売り上げは、比率にして実に1対9もの差がある。
これはどのような企業でもほぼ共通の比率となる。
もちろん、メルマガやライン公式アカウントに登録してもらえるように、SNSの発信を工夫していくことも重要だ。
投稿内容に「メルマガを登録するとお得な情報が得られる」などのメリットを打ち出して、登録を促すようにしておくといいだろう。
初めてSNSを使うために、何をすればよいのか分からない企業も多いだろう。
その場合は、AISASの表作りから始めるといい。
注目、興味、検索の項目で切り分けて、それぞれの部分でどのツールを使うのかを書いていく。製品・サービスのターゲット層はどこか、そこに最適なSNSは何か、方向性をしっかりと見定めて決めていきたい。
それでも迷うようであれば、まずはフェイスブックを始めてみることをお勧めする。
BtoC(消費者向け取引)のビジネスはもちろん、企業PRなど幅広い用途に対応でき、トラブルも少ないので安心して使える。
最も優れているのは、お互いが同意の上でつながり、情報を送ることができるという点だ。
これはメルマガに近い仕組みで、AISASの興味の部分もカバーできる。
まずは利用登録をして、自社の属性に近い企業が、どのような広報活動をしているか探ってみても損はないだろう。
(笹木郁乃、LITA代表・PRプロデューサー)
(本誌初出 コロナ禍の広報・PR 「SNS活用」で明暗=笹木郁乃 20201222)