コロナによる「閉店ラッシュ」の跡地を虎視眈々と狙っているサイゼリヤとニトリの深謀遠慮
新型コロナウイルスの感染拡大による外出制限、そして、人の密集とリアルなコミニュケーションを制約するウィズコロナ時代の新たな生活様式は、実店舗ビジネス、特に大都市の繁華街に集積する外食産業やアパレル業界に甚大な影響を及ぼしている。
コロナが終息した時、見慣れた街の風景が、一変している可能性がある。
外食チェーンは軒並み減収減益、赤字転落続出で、ファミリーレストランや居酒屋チェーンでは大量の店舗閉鎖が予定されている。
ロイヤルホールディングス(HD)は、ファミリーレストラン「ロイヤルホスト」や天丼の「てんや」など、不採算の約90店の閉鎖を発表。
ワタミも居酒屋114店舗を閉店するとともに、既存の居酒屋120店舗を、「強力な換気で安心感がある」と需要が高まる焼き肉店に業態転換する方針を発表した。
長引く外食離れに耐えかね、ひっそりと店をたたむ中小零細業者も出始めている。
閉店ラッシュは一方で、大都市の繁華街という一等地に新規出店の余地が大量に生み出されることを意味する。
既にこうしたフロンティアの確保に動き出している企業もある。
サイゼリヤは、「テークアウト+イートイン」のコンビニサイズの小型新業態の投入を開始した。
ウィズコロナ対策ともいえるが、繁華街でこれから出てくる小型の出店スペースを取り込む準備とも映る。
実質無借金の財務基盤に加え、100億円の借入金調達で、資金繰りも盤石だ。
さらに厳しい環境に置かれる居酒屋業界で、先を見据えた戦略を示すのは鳥貴族だ。
最終赤字に陥りながらも105億円の資金調達を終え、6月には、従業員の独立支援用のフランチャイズ小型店「鳥貴族大倉家」のテスト店舗をオープンした。
将来の出店余地の拡大を見据えて隙間(すきま)立地を取り込む戦略に、従業員のモチベーションアップを織り込んだ、前向きなチャレンジだ。
ワークマンは繁華街へ
一方、ファッションアパレルの店舗閉鎖は、レナウン、ワールド、オンワードHD、三陽商会、TSIHDの5社だけで3000店を上回るとされる。
ショッピングモールなどでは、代替店舗の確保が喫緊の課題となっており、その「受け皿」を、異業種からの参入組が狙う。
最近、DCMHDとの島忠争奪戦で話題となった剛腕ニトリHDは、「大人の女性」をターゲットとしたリーズナブルな新ブランド「N+(エヌプラス)」を強化し、200店舗体制の早期達成を目指すと発表。
現環境を追い風に、インテリア雑貨小型店「デコホーム」とともに出店を加速するとみられる。
ニトリを追撃するベイシアグループ傘下のワークマンも同様だ。
横浜・桜木町駅前の商業施設内にオープンした新業態「#ワークマン女子」は、このコロナ禍で絶好調。
作業服の機能性をカジュアル衣料に取り入れ、郊外で急成長してきたワークマンだが、今後は繁華街で急速に露出が増えるはずだ。
コロナでデジタル化が加速しても、実店舗の存在感が大きく損なわれることはないだろう。
それでも強者による弱者の淘汰(とうた)は一層進むと予想される。
ただ、アパレルや外食などのビジネスへの参入障壁は決して高くない。今後はベンチャーの登場にも期待したい。
(中井彰人、小売・流通アナリスト)
(本誌初出 注目業界展望 2年目の自粛生活 飲食・アパレル 閉店跡狙うサイゼリヤとニトリ=中井彰人 20201222)