経済・企業世界経済総予測 2021

業績相場へ移行ならダウ3万5000ドルも=岡田英/加藤結花/斎藤信世

 <第1部 転換点の主要国とマーケット>

「世界経済は今後2年間で勢いを増し、2021年末までに世界のGDP(国内総生産)はコロナ前の水準に戻る」。経済協力開発機構(OECD)は12月1日、こんな見通しを発表した。世界の実質経済成長率は20年は前年比マイナス4・2%に沈むものの、21年はプラス4・2%に転じ、コロナ禍で落ち込んだ分を取り戻すと見る。

 けん引役は21年に8%成長が見込まれる中国。多くの先進国は20年の下落幅を取り戻すのに時間がかかりそうだが、少しずつ回復に向かうと見込まれる(図1)。

 そうした中、株価はコロナ前の水準をも上回る空前の高値圏にある。米国ではダウ工業株30種平均(NYダウ)が11月24日に初めて3万ドルを突破した。その後も上値の重さはあるが、3万ドル前後の最高値圏での推移が続く。日本でも日経平均株価が1991年5月以来29年ぶりに2万6000円台を回復し、バブル崩壊後の最高値を更新した。世界株全体の株価の値動きを示す「MSCI全世界株指数(ACWI)」も12月8日に史上最高値を更新した。(世界経済総予測2021)

最大運用会社「買い」

 コロナ禍は、各国政府の財政出動と中央銀行による大規模な金融緩和をもたらした。大量の緩和マネーが株式市場に流れた。

 米国だけを見てもトランプ政権はコロナ対策で計3兆ドル(約310兆円)規模の財政出動に踏み切った。また米連邦準備制度理事会(FRB)は政策金利をゼロ近傍に抑え、市場から月に1200億ドル(約12兆4000億円)に上る国債などの債券を買い上げている。

 ワクチン接種も徐々に始まった。12月14日には新型コロナウイルスの感染者が世界で最も多い米国で接種開始。ワクチン普及による経済回復への期待が高まる。

 さらに米大統領選で当選を確実にしたバイデン氏が、政権移行へ始動したことが追い風となって、株価の上昇が一段と加速した。

 果たして、この株高は21年も続くのか。

「株価は、実質金利の低下に支えられるだろう」。世界最大の資産運用会社、米ブラックロックは12月7日に公表した21年の市場見通しで、米国株をこれまでの「中立」から「買い」に引き上げた。

 実質金利とは、見かけ上の金利(名目金利)から、家計や企業が予想する将来の物価上昇率「期待インフレ率」を引いたもの。実質金利が低いと、モノやサービスの値上がりに対して現金の価値が目減りするので、現預金の保有は不利となり、株式や金などの投資に向かいやすくなる。ブラックロックは、ワクチン普及で経済再開が加速してインフレ期待が上昇する一方、各国の中央銀行による緩和継続で名目金利は上がらないと見る。結果、実質金利が低下し、株価を押し上げていくというシナリオを描く。

 実際、ここまでの株高は実質金利の低下が支えてきた。各種金利に影響を与える米長期金利(10年国債利回り)から、期待インフレ率を差し引いた米10年国債の実質金利は、マイナス圏での推移が続く(図2)。これが、市中にあふれる緩和マネーを株式などのリスク資産に向かわせる原動力になっている。

米株「独り勝ち」も

2021年も株高に沸き続けるか (Bloomberg)
2021年も株高に沸き続けるか (Bloomberg)

「典型的な金融相場だ」。そう指摘するのは、ソニーフィナンシャルホールディングスの渡辺浩志シニアエコノミストだ。

 各国政府が財政出動し、それに伴う金利上昇を金融緩和で抑え、実質金利を低下させることで株価を押し上げる「金融相場」が、少なくとも21年春ごろまでは続くと見る。

 ワクチン普及とともに実体経済の回復が進んで企業実績が上がってくれば、「金融相場」から「業績相場」への移行が進み、NYダウは21年央で3万4500ドル、同年末には3万5000ドルまで上がってもおかしくないと予想する。

 短期では上がりすぎた反動で一服を予想する向きもある。金融アナリストの豊島逸夫氏は「降り積もったドカ雪の表層雪崩はあっても、根雪は残る」と調整は一時的との見方。「コロナワクチンの接種が始まり、これまでの『期待』が『現実』になると材料出尽くしで一時の調整はあろうが、この上昇相場の基調は21年は変わらない」と指摘する。NYダウで2万8000ドルまでの下落は見込みつつ、上値3万3000ドルを予想する。

 この強すぎる米株と、日欧など各国株の格差拡大を指摘する声もある。米国ではコロナ禍で一時0・5%まで下がった期待インフレ率が12月9日には1・9%まで上昇。インフレ懸念が高まっており、ドル安が進んでユーロ高、円高の圧力が強まって欧州や日本の経済を下押ししかねない状況になっている。渡辺氏は「日欧が追加緩和で米国に追随できずに円高やユーロ高が進めば『米国独り勝ち』になるかもしれない」と米株の独歩高となる可能性も指摘する。

最後の宴

 株価の明るい見通しがある一方で、気になるのは遅れ気味の実体経済回復だ。米労働省が発表した11月の雇用統計は、景気動向を反映する非農業部門の就業者数が前月比24・5万人増と、10月の同61万人増から伸びが大幅に鈍化。米国ではコロナ第3波の到来で感染者数や入院者数が増えて経済活動を制限する州も相次ぎ、米国の実体経済に影を落とし始めている。

 株価水準を決める企業業績予想と市場の期待のブレを考えると、現状は、いまだ盤石とは言えない業績予想に対して、株価は異常に過熱している。つまり、財政・金融政策による「カネ余り」とワクチンの存在が、市場の期待を“過度に上ブレ”させている。今後、株高を支える緩和の終了を市場が意識し始めた時、一気に反転へと向かう可能性がある。

「緩和マネーが支える株高は終盤にさしかかっている」と話すのは、ミョウジョウ・アセット・マネジメントの菊池真代表だ。ワクチン普及で経済正常化が進むにつれ、市場は大規模な金融緩和と経済対策の「手じまい」を織り込み始め、米長期金利が上昇して株価がピークアウトするシナリオを描く。12月16日時点で0・9%近辺の米10年国債の名目金利が「1%を超えたら『黄信号』で、少なくとも株価の上昇は止まる」と見ており、さらなる金利上昇によりNYダウで2万ドルまでの下落を見込む。ただ、経済が正常化するにつれ、企業業績も上向いていくため「景気後退を伴うバブル崩壊とは性質が全く違う」と指摘する。

 いずれにせよ、この株高の大前提は、大規模な金融緩和と財政政策だ。「手じまい」の時期はいつか来る。ワクチンが普及して経済が正常化するには時間がかかると見られ、そのタイミングが21年に訪れると見る専門家は多くない。

 21年は「コロナ株高」が当面続く「最後の宴」の年になるのかもしれない。

(岡田英・編集部)

(加藤結花・編集部)

(斎藤信世・編集部)

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