新規会員は2カ月無料!「年末とくとくキャンペーン」実施中です!

経済・企業 世界経済総予測 2021

米国1 パウエル=イエレン体制は緩和継続で景気てこ入れ=鈴木敏之

 2020年の米国は新型コロナウイルスの感染拡大への対応で行動制限が課せられ、経済は深刻な落ち込みとなった。それに応じて金融政策、財政政策で強い対応が取られた。金融政策については米連邦準備制度理事会(FRB)が政策金利を実質的にゼロ金利とし、それを続ける期待形成を促すフォワードガイダンス(金融政策の方針)を打ち出した。(世界経済総予測2021)

 さらに当初は金融市場の動揺収拾に力点が置かれた資産購入も量的緩和に位置付けられた。また、コロナ禍で生じる債務の返済困難が経済の回復を妨げるとして支援措置が導入された。社会経済活動の再開が図られたこともあって、経済は第3四半期に回復を見たが、第4四半期になっても、労働市場の余剰人員や余剰資源などが解消されない「需給の緩み(スラック)」を抱えた状態となっている(図1)。

米経済、二つのシナリオ

 21年の米国経済は二つのシナリオが描かれている。

 第一のシナリオは経済の再悪化である。コロナ禍の収束が見えない状態が続いても、共和党が上院優位を保ちそうな議会構成から財政発動の拡大には限界があると、20年経済を支えた財政からの支援が弱まる。財政の崖からの滑落による低圧経済の持続が見込まれてしまう。

 経済は需給の緩みを抱えたままで低圧経済が続くことは、2次的な悪影響をもたらす。すなわち、職を失った人々が債務を返済できない。クレジットカードの未決済残高の増加は消費を抑制する。売り上げを得られない企業が、債務を返済できないし、新規の投資や雇用を控える。こうした動きの中ではインフレ率上昇も抑制されるであろう。

 第二のシナリオはコロナ禍の収束を見ることによる経済の強い回復である。新型コロナウイルスのワクチンの開発が進んで、ワクチン接種による集団免疫の獲得によるコロナ禍の収束により、経済がある程度の勢いを持って回復するシナリオである。

 第一の経済再悪化の道筋をたどりそうであれば、金融政策は強い緩和を続けるのは無論であるし、緩和をさらに強めることも見ておかなければならない。

 パウエルFRB議長は金融緩和への強い積極姿勢を持っている。米連邦公開市場委員会(FOMC)が発表している経済見通しでは、市場参加者が見ている完全雇用失業率の中央値は4・1%であるが、パウエル氏は過去最低の失業率3・5%を意識している。その程度まで下がらないと「格差の是正は進まない」と発言している(20年9月15日の記者会見)。

 また、新政権の財務長官に指名されたイエレン前FRB議長は、議長任期の過半はリーマン・ショック後の強い金融緩和からの正常化を進めた。政策金利は上限2・5%まで0・25%ずつ9回も引き上げている。タカ派政策を取ったのである。その論理は首尾一貫していて、需給の緩みを起点に見ているのである。需給の緩みが解消されるならば、それまでの強い緩和は必要ない。急激に正常化をはかると急ブレーキの弊害が出るので、需給の緩みの解消が見込めるところで正常化を始めた。イエレン氏が上限2・5%まで利上げしておかなければ、コロナ禍での20年3月のゼロ金利投入による金融緩和で経済を支えることはできなかったであろう。

 財務長官が金融政策を差配してはならないが、今の需給の緩みに加え、議会のねじれにより財政からの刺激に制約があるとすると、イエレン氏が望ましいと考えるのは強い金融緩和である。しかも金融政策の操縦かんを握るパウエル議長は、さらにハト派である。経済再悪化であれば21年中、現行の金融緩和継続を続けるのは論をまたず、状態に応じて追加緩和も繰り出されることであろう。

収束でも正常化には慎重

 ワクチン開発の進展が盛んに報道されている。それでも金融緩和の解除までの道のりは結構遠い。まず、ワクチンも十分な量の製造・輸送・保管・接種はそれぞれ容易ではなく、集団免疫獲得と言える状態になるまでは時間を要すると見られている。それを早くて年後半と見ても、それまでは経済には需給の緩みが残り続ける。今でもインフレ率は低い。その上昇を見るのにも時間を要する。

 失業率が十分に低下して、格差是正の動きが見えて、さらにインフレ率が2%超を持続的に達成できると見込めるようになるまで緩和は続くであろう。

 政権が増税を行って財政支出を拡大する路線で走るなら、経済の復調を見たときは増税が動き出す。増税による経済へのストレスがかかる場合、金融政策に負担がかかることになろう。

 ワクチン開発でコロナ禍収束、そして金融政策正常化の道筋を進むとみるのは容易ではない。

 経済が大きな需給の緩みを抱えている中、資産価格は急騰している(図2)。米国株価指数は最高値更新がなされている。この資産価格急騰は金融緩和がもたらしたところがあるとされる。企業債務の増加も危惧されている。

 強い金融緩和には警戒も持たれ出している。“バブルについて破裂するまでは傍観する”という連邦準備制度(FED)の姿勢、いわゆる「FEDビュー」と、“事前に対処を要する”という国際決済銀行(BIS)の姿勢、いわゆる「BISビュー」があるが、パウエル議長は前者である。金融的な不均衡の監視、対応は、金融規制・監督が第一線という立場も持っている。バブルを意識して金融政策から対応が取られることは、なかなかなさそうである。

 21年も米国の金融政策は強い緩和を続けると見込まれる。

(鈴木敏之・三菱UFJ銀行シニアマーケットエコノミスト)

インタビュー

週刊エコノミスト最新号のご案内

週刊エコノミスト最新号

12月3日号

経済学の現在地16 米国分断解消のカギとなる共感 主流派経済学の課題に重なる■安藤大介18 インタビュー 野中 郁次郎 一橋大学名誉教授 「全身全霊で相手に共感し可能となる暗黙知の共有」20 共同体メカニズム 危機の時代にこそ増す必要性 信頼・利他・互恵・徳で活性化 ■大垣 昌夫23 Q&A [目次を見る]

デジタル紙面ビューアーで読む

おすすめ情報

編集部からのおすすめ

最新の注目記事