「まれに見る弱い政権基盤」「トランプ路線を継承?」前途多難のバイデン政権はどこへ向かうのか
バイデン次期政権は米国史上、まれに見る弱い政権基盤とともにスタートする。
民主党の中で伸びたのが、バイデン氏を含む中道でなく左派であることを考えると政権の党内基盤は弱い。
さらに上院は共和党が実質的に握ることになるため、議会の共和党指導部との調整が必須になる。
民主党内の融和と共和党対策を両立させなければいけないため、矛盾した政権運営が強いられる。
いわゆる「決められない政治」になりかねない。2022年の中間選挙、次の大統領候補選びで徐々に混迷するだろう。
気候変動対策などは民主党支持者や若者が重視しており率先して取り組まなければいけない課題だが、クリーンエネルギー拡大策は国内の従来型エネルギー産業の雇用を減らすことになるため実行が難しい。
「国際協調」もアピールするだろうが、環太平洋パートナーシップ協定(TPP)は議会の慎重論が根強く、イラン核合意(JCPOA)も中東情勢が様変わりしており、単純に復帰できるものではない。
今、ワシントンには「政権交代によって米国がすぐに世界のリーダーシップを取り戻す」という雰囲気がある。
しかし、それは世界が認識している米国像と乖離(かいり)しすぎている。
米国はレイシズム(人種差別主義)の蔓延(まんえん)や経済格差の拡大などで分断されている状況にある。世界をけん引するには足腰が弱すぎる。
中国は、リーマン・ショック、コロナ禍と2回の危機をいち早く乗り越えた。
しかし、中国は近隣諸国に圧力をかけ続け、香港や新疆ウイグル自治区の問題など人権面でも世界から批判を受けており、覇権国に必要な「モラル面でのリーダーシップ」は皆無だ。
米国の地盤沈下を放置すれば、世界はリーダー不在の状況が続くだろう。
G7が鍵
バイデン政権の閣僚人事を見ると、伝統的な外交エリートばかりの布陣だ。
米国外交は伝統的に、欧州に目を向けることが国際協調であると考える「大西洋重視」が強い。
最初は北大西洋条約機構(NATO)諸国との関係修復や、そのためのロシア強硬策に動くと考えられる。
焦点の対中関係は、トランプ政権同様に民主党も中国の成長を問題視し不信感も根強いため対立姿勢は変わらない。
バイデン氏が副大統領を務めたオバマ政権時よりも、習近平政権は対内・対外両面で強権化しており、中国に対して強い姿勢で臨むのは間違いない。
トランプ政権が強化した輸出管理など高度な技術を守る政策を維持し、情報通信を中心に中国製品への依存解消やサプライチェーン見直しも進めるだろう。
ただし、気候変動対策などは中国との協調が必要になる。
人権問題などで圧力を掛けつつ交渉の場を設けて、そこで有利な条件を引き出そうと動くかもしれない。
米国の産業界の意をくんだ貿易交渉も始まるだろう。対中関税の緩和はその後だ。
これはバイデン政権が弱腰になるというより、対立と対話が併存していくと見た方がよいだろう。
トランプ政権から大きく見直されそうなのが対アジア外交だ。
アジアは中国が政治的・経済的に影響力を高めようとしている地域でもあり、中国独自の国際秩序の形成を恐れる米国にとって無視はできない。
バイデン政権はホワイトハウスを司令塔に、中国の影響力拡大を阻止するために外交や経済支援を多用するだろう。
一方で、いったん保護主義的な方向に向いてしまった米国は、国際主義・自由貿易重視路線には簡単には戻れない。
同盟国に軍事的にも政治的にも負担を要求することが予想される。
中国に対しては国際秩序の枠組みで対応していくことが重要で、日本を含むG7(主要先進7カ国)を中心とする先進民主主義国の協調が鍵となる。
(佐橋亮・東京大学東洋文化研究所准教授)
(本誌初出 国際協調 まれに見る弱さのバイデン政権 アジア重視も対中姿勢は強硬に=佐橋亮 20210105)