「定年引き上げ」に「出生制限の緩和」も?中国の次期5カ年計画に「少子化対策」が盛り込まれるワケ
中国は間もなく、新しい5カ年計画の期間に入る。
その「第14次5カ年計画(2021~25年)」の骨子が10月末、北京で開かれた共産党中央委員会全体会議で採択された。
国内総生産(GDP)成長率や都市化率、非化石エネルギー比率などの定量目標は、来春の全国人民代表大会で正式な計画が採択されるのを待たねばならないが、骨子が示唆するところも多い。
まず、骨子の段階でアクションが具体的に書かれているテーマは、指導部が特に重視していると言える。
例えば、「科学技術強国行動綱要」や「30年以前に二酸化炭素(CO2)排出量をピークアウトさせるための行動計画」、「人口長期発展戦略」の策定などだ。
「定年」引き上げ
科学技術に関しては、習近平国家主席が中国の弱点の補強として、基礎科学教育の強化や「(“1から100”への応用ではなく)“0から1”の独創的な成果」の重要性を各所で訴えており、関連施策や目標が行動綱要に盛り込まれる見通し。
CO2排出のピークアウトは、従来目標の「30年前後」から前倒しで実現させる。
人口戦略の柱は高齢化対応である。
中国は22年にも65歳以上人口が全体の14%を超える見通し。
この予測は、少子化の進行で過去10年で5年ほど前倒しされている。
骨子では、現在男性が60歳、女性(大卒会社員の場合)が55歳の法定退職年齢を段階的に引き上げることを公約。
さらに、一部の学者からは、現在夫婦で子供2人が上限の出生制限を緩和すべし、との声が上がっている。
このほか、骨子では、格差是正策の一環として「第1次所得分配における労働分配の比重引き上げ」に言及。
端的に言えば、給与の引き上げだ。いかに、どこまで実現させるのか、注目される。
骨子全体に通底する意識、特に現行計画からの変化も注目される。
キーワードの一つは「安全」で、今回の骨子では計66回も言及(15年10月の現行計画の骨子では46回)。
前回は直前に天津の化学品倉庫爆発事故があった影響もあり、産業事故の防止や、食品や飲料水、医薬品の安全といった“Safety(安全性)”の意味での言及が目立った。
今回の骨子では「安全」の対象に、サプライチェーン(供給網)や重要技術、データ、政権や制度などが新たに加わった。
これらは「外部からの脅威に対する防御」で、“Security(安全保障・保安)の意味合いが強い。
習主席は骨子策定に先立ち、「安全は発展の前提、発展は安全の保障」と語った。
これも“Security”色が濃い。
次期5カ年計画における「安全」の範囲・概念の拡大は、14年に習主席が提起した「総体的国家安全観」の浸透が進んだことを示す。
これを促したのは、デジタル社会化や香港の動揺といった内部要因と、米中摩擦やコロナ禍、一部これらに起因するグローバルサプライチェーン再編の動きなどの外部要因がある。
習政権は25年に向けて「安全」への意識を強め、各種の政策を展開していくことになる。
これは日本企業の中国ビジネスにとって、事業上のリスクや制約になり得るが、中国の当局や企業が安全確保のために日本企業との連携を必要とする場面では、追い風にもなり得る。
(岸田英明・三井物産〈中国〉有限公司チーフアナリスト)
(本誌初出 次期5カ年計画骨子が示す 中国の「安全」意識の変容=岸田英明 20201222)