ロックダウンでむしろ「在庫一掃」できた? 製造業の回復が思ったより早い意外な事情
世界的に製造業の生産活動の回復が明確化してきた。
11月のグローバル製造業PMI(購買担当者指数)は53・7と好不況の分岐点を5カ月連続で上回り、2018年2月以来の高水準に達した。
この指標は企業に対して前月との比較で景況感を問う形式であるから、指数改善はこの間の回復モメンタムが強まっていることを意味する。
底堅さの背景は主に二つである。
一つは旅行、外食、エンターテインメントといった対面型サービス消費の代替需要だ。
世界的に国境をまたぐ移動に制限がかかり、人が密集するイベントは激減し、外食も逆風にさらされている。
そうした状況で、人々は本来“コト”に使うはずだったおカネをIT製品(スマホ、パソコン、タブレット)、自動車、家電に振り分けていると思われる。
例えば米国の消費統計をみると、コロナ禍が発生する直前の2月と10月の比較でサービス消費がマイナス5・8%と大幅に減少している半面、非耐久財はプラス4・0%、耐久消費財はプラス15・2%と大幅に増加し、消費全体はマイナス1・6%まで戻している(名目ベース)。
日本では家電量販店売上高が堅調に推移し、自動車販売も持ち直しつつある。
在庫は7カ月連続で減少
もう一つの要因として、企業が抱える在庫の少なさがある。
たとえば、日本の鉱工業生産統計で在庫水準を確認すると、直近は7カ月連続で減少し、14年前半と同水準まで低下している。
通常の景気後退局面では、景気減速が短期かつ浅めに終了するとの希望的観測や生産計画練り直しのコストが大きいことなどから、需要減少に対して生産調整(減産)が追い付かず、結果的に在庫水準は上昇する傾向にある。
だが、今回は緊急事態宣言に伴って生産活動が縮小を余技なくされたことで、その間の生産が激減し、結果的に過剰在庫の発生が抑制された形だ。
リーマン・ショック時のような増加は観察されておらず、出荷と在庫の前年比伸び率の差分をとった出荷・在庫バランスは10月にプラス圏に浮上した(出荷の伸び率>在庫の伸び率)。
これは将来の生産活動が一段と活発化するサインである。
こうした状況は米国、中国、ドイツも同様。各国のPMIで新規受注と在庫のバランスを確認してみると、押しなべて「受注>在庫」の構図にある。
11月以降の世界的株価上昇を巡っては、実体経済を反映していないとの指摘が多いが、製造業の業績回復期待を裏付ける材料があることは確かだ。
(藤代宏一・第一生命経済研究所主任エコノミスト)
(本誌初出 製造業指標に実体経済回復の予兆=藤代宏一 20201222)