劇場版『鬼滅の刃』大ヒットでも回復できない……映画・イベント業界がコロナで受けたダメージの深刻度
特に対面で行うライブ型イベントは、軒並み開催を延期、もしくは中止に追い込まれた。
そのようななか、業界が見いだした活路がオンラインだ。
最初はライブで行うことのみに執着していた業態も、徐々にオンラインでの対応をするようになった。
音楽関係では6月25日にサザンオールスターズが横浜アリーナで無観客ライブを開催し、その様子をオンラインで配信、推定視聴者数は50万人にのぼった。
若手ミュージシャンの米津玄師(けんし)も、オンラインゲーム「フォートナイト」のゲーム内においてライブを行うなど、これまでにない試みを行っている。
他には、スマホやパソコンなどで視聴できるバーチャルSNS(交流サイト)の「クラスター」も注目された。
クラスターでは、仮想空間上にライブ会場や街並みを構築し、そこにアバター(自分の分身となるキャラクター)で参加する、体験型の性質をもったオンラインイベントを開催できる。
例えば、人気ゲーム「ポケットモンスター」をモチーフに毎年夏に横浜で開催されていたイベント「ピカチュウ大量発生チュウ」は、今年はクラスターを利用してオンラインで開催された。
また、ユーチューブを使った宣伝も活発化した。
プロ野球チームの読売ジャイアンツは、公式のユーチューブ・チャンネルを3年前に開設、コロナ禍以前は動画数も少なかったが、今年から試合前のベンチ裏の様子を積極的に配信するなど、よりファンに向けた内容で視聴者の確保を狙っている。
「鬼滅の刃」のヒット
映画業界では、新作映画の公開延期や動画配信への切り替えが相次いだため、集客を見込める作品の上映がままならない状態が続いていた。
その後、第2波が落ち着き、ようやく映画館に観客が戻り始めたタイミングで公開されたのが、「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」(鬼滅の刃)だ。
他の新作タイトルの少なさもあって人気が集中、映画館側も館内すべてのスクリーンで鬼滅の刃を上映する異例のスケジュールを敢行した。
鬼滅の刃の興行収入は11月末時点で275億円を突破し、歴代興行収入2位に躍り出ている。
この大ヒットは2020年のエンタメ業界で唯一、明るい話題となった。
しかし、21年のエンタメ業界は依然として厳しい状況が続く可能性が高い。
オンライン化やバーチャル化は一定の成果を見せているが、どちらもコロナ禍以前と同じようなマネタイズ(収益化)はできていないのが現状だ。
鬼滅の刃についても、緊急事態宣言などで行動が抑圧されたことへの反発という側面もあり、根本的に映画業界が持ち直せるかどうかは微妙なところだ。
座席制限が解除されたが、飲食に関しては禁止している映画館も多く、全面的に以前と同じ状態に戻れているとは言い難い。
21年は更なるウィズコロナの対策と収益化につなげる施策を打ち出すとともに、業界を挙げての新たなエコシステム(経済的な生態系)を確立することが急務になるだろう。
(岡安学・デジタルライター)
(本誌初出 注目業界展望 2年目の自粛生活 エンタメ サザンもピカチュウもオンライン=岡安学 20201222)