教養・歴史書評

『VUCA時代のグローバル戦略』 評者・加護野忠男

    著者 パンカジュ・ゲマワット(ニューヨーク大学スターン・ビジネススクール教授) 監訳者 琴坂将広 訳者 月谷真紀 東洋経済新報社 3000円

    企業の世界展開阻む四つの壁 標準化と現地適応は両方必要

     邦訳タイトルの「VUCA」とは、もともと軍事用語で、変化の幅が大きく(volatility)、外界でいつ何が起こるか予測できず(uncertainty)、物事が複雑に絡み合い(com-plexity)、因果関係が分かりにくい(ambiguity)、という戦略作りの難しさを示す合成語である。本書は、企業のグローバル戦略についてVUCAの面から分析を試みている。

     第1部では、グローバリゼーションがどのように進展しているかが、多様なマクロデータを基に解説されている。ここで著者は、グローバル化は、ヨーヨーのように上下しながら進展するという。しばらく前までは、グローバリゼーションは不可避的に進むものと見られてきた。グローバリゼーションが経済全体にも企業にもメリットがあるという素朴な楽観主義(「グローバロニー」と著者は呼ぶ)は、企業に大きな損失をもたらしてきたと著者は言うのだ。その典型は、2代続いた社長がともにグローバル化戦略を追求したがために、集権的な組織を選択してしまったコカ・コーラの例だという。

     第1部では、グローバル化の法則についても議論されている。その一つは、グローバル化の障害物について。文化、政治、地理的距離、経済的な格差の四つが大きければ大きいほどグローバル化は進まないという法則のことである。

     第2部では、これからのグローバル企業の戦略と組織について語られる。これまでのグローバル経営論は、戦略に関して全世界的標準化か現地適応かという二者択一によって捉えられてきた。また組織に関しても、集権化と分権化の二者択一が強調されていたが、著者は、二者択一ではなく、両者がともに必要だと主張する。現地適応、集約化、アービトラージ(同一価値商品の一時的価格差に基づく裁定取引)を組み合わせた複合戦略である。

     グローバルな組織編成に関して言えば、適応の戦略を実行するには分権的組織が必要であるが、同時に集約の実行のためには、強力な結合組織も必要となる。著者は、その結合手段を六つの要素に求めている。求心力のある企業文化、ネットワーク化されたイノベーション、イニシアティブとタスクフォース、テクノロジー・イネーブラー(企業のソーシャル・ネットワーク)、海外派遣と人の移動、人材育成プログラムだ。

     情報量が多いので、具体的に戦略や組織について論じた第2部を先に読み、グローバル化の現状と衝撃を分析した第1部は後から読まれることをお勧めする。

    (加護野忠男・神戸大学特命教授)


     Pankaj Ghemawat ハーバード・ビジネススクールで教鞭を執った後、現職および経営教育国際化センターのディレクターを務める。2008年、英『エコノミスト』誌の「史上最も偉大な経営思想家ガイド」に最年少指導者として選出された。

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