教養・歴史書評

アメリカ ロマンス時代小説、TVドラマ化で大ブーム=冷泉彰彦

     年明けのアメリカにおける、フィクションのベストセラー・ランキングに異変が起きている。19世紀の英国を舞台にしたロマンス・ノベルが大ヒットしているのだ。ジュリア・クイン作の『ブリジャートン家』9部作のうち、第1作の『公爵と私』がアマゾンの「最も売れた本」の1位、そしてベスト15の中の5冊が同シリーズで占められている。

     ヒットの原因は、このシリーズがNetflixのオリジナルドラマとして制作され、昨年の12月25日に配信されたからだ。同社のドラマの中で史上第5位となる視聴者数を短期間で一気に獲得したことが、原作小説の急速な売れ行きにつながった。Netflixは年明けのタイミングで加入者が2億人を超えたと発表し株価も上昇したが、この『ブリジャートン家』の人気が大きく貢献したと言われている。

     内容は、19世紀の英国(と思われる)の貴族社会における8人兄弟の恋愛と「婚活」を描いたロマンスだ。英国の文豪ジェーン・オースティンの各作品の要素に、アメリカの作家ルイーザ・メイ・オルコットの『若草物語』を加えたような物語がどうしてミレニアル世代に受けているかというと、二つの理由がある。

     2000年に第1作が発表されて人気を高めてきた原作は、一見すると19世紀の保守的な世界を描きながら、登場人物の心理は21世紀の現代の感覚で描いており、フェミニズム的な視点と、開放的な性表現が読者に受けている。特に逸脱的な性愛描写において、女性が男性を主導するシーンは賛否両論となっていた。

     TV版はこれに加えて、人種の多様性を強く持ち込んでいる。ヒロインのお相手である公爵はアフリカ系(ジンバブエ出身)の俳優が演じているし、ヒロインの相談相手の年長女性も、そしてドラマの独自キャラクターとして登場する女王もアフリカ系となっている。違和感を指摘する声がある一方で、原作者がこの演出を強く支持したことで、ファンも支持し、何よりも話題性を提供したことが原作のヒットにつながった。

     今回のヒットは、メディアミックス戦略の成功に違いないが、21世紀の若者の価値観である、フェミニズムと人種の多様性というツボを押さえたことが要因と言えるだろう。

    (冷泉彰彦・在米作家)


     この欄は「永江朗の出版業界事情」と隔週で掲載します。

    インタビュー

    週刊エコノミスト最新号のご案内

    週刊エコノミスト最新号

    11月2日号

    地震、台風、土石流 あなたの町の危険度16 水害発生地でなくても区内は5%地価下落 ■中園 敦二/和田 肇18 「災害リスク税」の創設を ■釜井 俊孝19 首都圏人気路線安全度 利便性や土地ブランド優先 必ずしもリスクを反映せず ■横山 芳春20 東急東横線 反町、妙蓮寺、白楽に着目21 東急田園都 [目次を見る]

    デジタル紙面ビューアーで読む

    おすすめ情報

    最新の注目記事